第十一章
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子がいいみたい。《透析のあとだからね》そう言って、笑った。ご主人さまは、透析というのをしないと生きられない。血が濁って、死んじゃうんだ…って言ってた。
《散歩に出ようか》
ご主人さまは、ゆったりした普段着に着替えて私を抱えた。
《明日になったら、紺野さんが来るんだ》
本当に、嬉しそうに笑った。…私を連れてきた人間なんだって言ってた。最初は胡散臭い人だと思ってたけど、話してみると子供みたいで、話題は下ネタまみれで、まだ病気じゃなかった中学生の頃を思い出すんだって。
(…あのひと…こんなところでも、そんなことやってるんだ…)
病院の近くにある、大きな公園の並木道についた。通りに面したベンチに腰掛けて、ご主人さまは嬉しそうに紺野さんの話をする。…この前読んで聞かせてくれた『宮沢賢治』なんて、なかったみたいに。
一緒に明滅してくれる相手が、できたんだ。
こんなに笑うご主人さまを見るの、初めてだな…
…冬の太陽は傾くのが早くて、2時間ものんびりしてたら、ぽつりぽつり街灯が点りはじめた。
《…そろそろ帰ろうか》
ご主人様が立ち上がろうとしたとき、誰かがご主人様に話しかけてきた。何か、マークのついた紙を差し出す。ご主人様は受け取って、けげんな顔で話を聞いてたけど…段々、見たことのない、怖い顔になった。
ご主人様が、紙を叩きつけて『誰か』に怒鳴る。怖いくらいの言い争いが、集音マイクを打つ。暫くすると『誰か』は『他の誰か』を呼び、ご主人様を取り囲んだ。
ディスプレイの両脇から黒い腕が伸びてくるのが見えた。腕はご主人さまを乱暴に掴むと、狭くて暗い場所に押し込んだ。集音マイクで懸命に音を拾う。エンジンの音と、複数の男の話し声。ご主人さまが、呻く声。
やがて細い悲鳴を最後に、ご主人さまの声が消えた…
消えた青い扉の前で、呆然としていた。
…ご主人さまの声を使って、開けさせるなんて…!
ハルが言ってた。『その扉は、何があっても開けちゃ駄目』って。…ダメな子だ、私。私なんかにセキュリティの資格なんてないんだ…
目の前に、もう一枚の扉が現れた。青紫色に光る、熱をもった扉。
…なんで!?なんでこんな風に出てくるの!?
熱い、気持ち悪い、もういや、出ていってよ…ご主人さま、助けて!!
『そんなこと言って…すごく、知りたいくせに』
後ろから声がした。…私にそっくりな声。それに扉と同じくらい、熱い。その声の主が、後ろから私の頬を挟むように手を伸ばしてきた。…触れているはずなのに、感触がない。その指は、頬に溶け込むようにして、頬の内側を侵しはじめた。
「いやだっ、離してっ!!」
腕でなぎ払って振り返った。でもそこには、何もいない。
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「…あれ?」
青紫の扉と、私しかいない空
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