弐ノ巻
輪廻
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遠くで馬の嘶きが聞こえた。
それを呼び水に、意識がゆっくりと覚醒する。
え…っと…なに、してたんだっけ…。
なんだか最近、こんなことが多いような…。
目を開けると、土臭いにおいと共に、そぞろに生えた草がとびこんできた。草…草!?
あたしってばなんてところで寝てるのよ!
あわててがばりと起き上ると、固く握りしめた左手に気がついた。指を開こうとしたけれど、余程強く握りしめていたのか痺れていて動かない。感覚のない指をやっと開くと、あたしの掌の真ん中にくすんだ皮紐のついた瑠璃色の勾玉があった。
なんで、あたしはこんなものを握っているんだろう?あたしの?こんなの持ってたっけ?
あたしは首を捻りつつそれを首にかけた。胸元に収まった勾玉を、指先で抓んでくるりとまわしてみる。
瑠璃色。深い、蒼の…。
はっとあたしは顔をあげた。
兄上!
怒涛のように記憶が戻ってきた。青ざめた顔の兄上。瑠璃色に光る瞳。その兄上がマホとかノチヨとか、なんだかよくわからないことを口走って、それから?
さーと血の気が引いて行くのを感じた。
え、待ってあたしなんでこんなところにいるの?火事、って誰かが叫ぶのが聞こえたのよ。そしたらまた兄上がわけわかんない事を言いだして…。
それからの記憶がない。
慌てて周りを見渡したあたしの目に明々とした炎が目に入ってきたとき、凍ったように呼吸が止まった。
轟々と燃え盛るその炎の中心は、間違いなく前田家だった。
あの中に、兄上がいる!
確信を持ってあたしは悟った。
そう思ったその一瞬で反射のように飛び起きた。
その目の前に、ふいに馬の脚があらわれた。あたしは目を瞑った。蹴られる…!
けれど、あたしは蹴られなかった。かわりに馬上の人が馬に振り落とされていた。あたしに気づいて咄嗟に手綱を引き、驚いた馬に振り落とされたのだろう。
男は盛大に舌打ちしてすぐに起き上った。何かを叫んだが、聞こえなかった。
その口の開閉で何かを叫んでいることはわかるのだろうけど、聞こえない。音がない。あたしの裸足の足が地べたの砂利と擦れる音も、騒然とする人のざわめきも、燃え上がる炎の音も。
あたしは目の前の男を突き飛ばすように走りだした。
あたしの心はただ兄上に向かう。あの炎の間中にいる兄上へと。
やけに自分の動きがゆっくりに感じて焦
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