第一幕その九
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女を見る。だが当の彼女の顔は晴れない。何か絶望しきったような顔である。
だが皆それには気付かない。舞台の後で疲れているのだと考えた。
「アドリアーナに敬意を!」
誰かが言った。そして皆それに従い彼女を取り囲み褒め称えた。
「有り難うございます・・・・・・」
彼女は笑顔でそれに応えた。だがその顔は青い。
「さて、皆さん」
ここで公爵は一同に向き直って話しはじめた。
「私は今宵皆さんを別荘の小さな宴に招待したいのですが」
「お、いよいよか」
公爵のこの提案に僧院長とアドリアーナ以外の役者達はニンマリと笑った。
「貴女は勿論主賓としてです」
公爵はそう言ってアドリアーナの方を見た。
「如何ですか、皆さん」
彼は一同に向き直り彼等に尋ねた。
「公爵の別荘ですか?」
アドリアーナはふと気がついて彼に尋ねた。
「はい、そうですが」
彼はアドリアーナの突然の態度にいささか驚きながらも答えた。
「そうですか。それでしたら是非私も。宜しいですか?」
「ええ、勿論ですよ。主賓なのですから」
公爵は再び笑みに戻って答えた。彼はアドリアーナとマウリツィオとの間にどういうやりとりがあったかは知らなかった。
(あの方もあの別荘にいるのだから)
彼女は心の中でそう呟いた。
「では今日の夜半に。宜しいですね?」
「ええ、勿論」
一同は公爵の言葉に喜んで答えた。
「では楽しみにしておりますぞ」
「こちらこそ」
一同はウキウキした顔でその場を後にした。公爵と僧院長は含み笑いで、役者達はこれから起こるであろう事を予想してニヤニヤしながら。
アドリアーナは期待に満ちた顔でその場を後にした。そして控え室には誰もいなくなった。
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