第一幕その六
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ィオは客席へと向かった。控え室には誰もいなくなった。
だがすぐに誰か入って来た。左手から公爵が入って来た。何か案じているようである。
そしてそれとほぼ同時に右の奥から僧院長が入って来た。彼はいささか誇らしげである。
「僧院長」
公爵は彼の姿を認めて声をかけた。
「こちらにありますよ」
彼はそれに対して一枚の紙を手にヒラヒラとさせて答えた。
「それはもしかして」
公爵は彼に尋ねた。
「そうです。デュクロの貞節の証です」
しかしその声には皮肉がこもっている。どうやら何かあるようだ。
「もう一袋でどうですか?」
僧院長は公爵に対して悪戯っぽい顔で言った。
「う〜〜む、まあいいだろう」
公爵は顔を顰め考えながら答えた。
「それではどうぞ」
手紙は公爵に手渡された。彼は手紙の封を切って読みはじめた。
「どうです?デュクロの字ですか?」
「筆跡を変えてあるな」
公爵は手紙の中を読みながら言った。
「随分汚い字だな。これはデュクロの字じゃないぞ」
彼はそう言うと僧院長へ手紙を返した。
「私にはちょっと読めそうにない。悪いが読んでくれないか」
「はい」
彼はそれに従い手紙を読みはじめた。そこに左の戸口から姫君が、右の戸口から女神がそれぞれ顔を出してきた。
「あら、何か面白いことやってるわね」
二人はそう言うと顔を隠した。そして様子を見守ることにした。
「今夜十一時にいつものセーヌ川のほとりの別荘で」
「私の別荘だよ、そこは」
公爵は彼に言った。
「政治工作打ち合わせの為に・・・・・・政治工作、ですか?」
僧院長はそこで顔を顰めた。
「いいよ、私にはわかるから。続けてくれ」
「はい、それでは」
公爵に促され僧院長は読み続けた。
「待っております。他言ご無用。ピリオド」
「そしてサインは?」
「親愛なるコンスタンスより、とあります」
「やれやれ、とんだコンスタンスだな」
コンスタンスとは女性の名であるが貞節という意味もある。
「これはもしかして彼女の仮名ですかな?」
僧院長は嬉しそうに尋ねた。
「まあね。だが私に見つかったのが運の尽きだ」
「おやおや、デュクロもドジなことだ」
僧院長は道化て言った。
「僧院長、止めてくれ。何か不愉快になってきた」
「はい。しかし『貞節』とはまた皮肉な仮名ですな」
「うむ。私はどうやらとんだ道化役者というわけか」
公爵は顔を顰めて言った。
「そしてその手紙の届け先は何処になっているのかね?」
「この劇場内ですね。右側三番目のボックスです。・・・・・・あれっ、これはもしかすると」
「浮気相手が誰か知っているのかい?」
公爵は彼に尋ねた。
「ええ。確かザクセン伯の筈ですよ」
「ザクセン伯?ああ彼か」
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