第一幕その四
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「じゃあこの勝負はお流れということで」
二人は勝負を中断してチェスを収めた。
「ところでデュクロは?」
公爵はミショネに尋ねた。
「楽屋におられましたよ。何か書きものをしておられました」
「書きもの?手紙かな」
「どうやらそのようでしたが」
「だったら誰だろう」
「僕だったりして」
そこで庶民が茶々を入れてきた。
「そんなわけないでしょ」
それを姫君が笑って否定する。
「じゃあ私だな」
高官が誇らしげに胸を張った。
「それならデュクロさんこっちに来てるわよ」
女神がそれをからかう。
「皆さん、そんなこと言ってないで早く舞台へ!」
「おっと、そうだった」
ミショネの言葉に驚いて彼等は笑いながら舞台へ向かった。公爵は彼等が去ると僧院長に顔を向けた。
「僧院長、その手紙だが」
「はい」
彼はその言葉に答えた。
「どうにかして手に入れられないかな」
「どうやってですか?」
彼は素っ気無く答えた。だがそれは暗に何かを求めているのである。
「これと引き換えに、というのはどうだろう」
公爵はそう言うと彼に皮の袋を手渡した。皮の中は言うまでもない。
「わかりました。お手紙は必ず公爵の下へ飛んで来るでしょう」
僧院長はそれを受け取ると静かに答えた。
「有り難い、これも神の思し召しだな」
少し、いやかなり、それでも足りない。全く違うと思われるが公爵は満足して言った。
「では私は神の祝福に対して感謝するとしよう」
「はい。神は公爵に必ずや祝福を与えられることでしょう」
公爵と僧院長はそう言うと部屋を出た。公爵は観客席へ戻り僧院長はデュクロの楽屋へと向かった。
部屋に残ったのはミショネとアドリアーナだけとなった。ミショネはほっとした顔で練習を続けているアドリアーナを見た。
「ようやく二人きりになれたな。ほんの一瞬だが」
彼はアドリアーナに聞こえないようにそっと独白した。
「ずっと想い続けて溜息ばかりついているが。言うべきか。いや・・・・・・」
彼はその言葉に対し頭を振った。
「彼女は若くて美しい。だが私はこんな老いぼれだ。彼女に私は釣り合わない。だが言うべきだろうか、それとも言わないでおくべきか」
彼は思案した。
「明日言うべきか。いや、明日になると私はもっと爺さんになってしまっている」
考え続けた。アドリアーナはその間も練習を続けている。
「いや、やはり言おう。迷っていてもはじまらない。当たって砕けろだ」
彼はアドリアーナの方へ顔を向けた。
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