第五十三話 ノーザン=クロス
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は?」
「シェリルはここにいるんだよな」
「はい」
矢三郎はその問いには静かに頷いて答えたのだった。
「その通りです」
「大丈夫なのか、それで」
「今は安静にしておられます」
「会いたい、いいか」
切実な顔でかつての兄弟子に告げる。
「それは」
「どうぞ」
そして彼もだ。それを穏やかに受けた。
「お入り下さい」
「いいのかよ」
「何度も申し上げますがここは貴方の家です」
だからだというのである。
「ですから。何時でもお帰り下さい」
「それでかよ」
「何度も申し上げますが待っていました」
そしてこうも言うのであった。
「ですから」
「・・・・・・そうか」
こうしたやり取りの後でだ。アルトは家に入った。そうしてそのうえでだ。畳と障子の部屋で和服を着て夜の中にいるシェリルと会うのであった。
「アルトなのね」
「・・・・・・ああ」
シェリルの問いに答えた。
「また歌うんだってな」
「自然にね。そういうことになったわ」
こうアルトに話すのだった。二人は屋敷の縁側に出て話す。
「そうね」
「そうか」
「そうなの。やっぱり私は歌うのね」
「いいんだな、それで」
アルトはシェリルの横顔を見て問うた。
「御前はそれで」
「私には歌しかないみたいだから」
シェリルの笑みは何故か寂しげなものだった。
「だからね」
「けれど御前は」
「話、聞いたの」
「何か悪いのはわかるさ」
それでだというのだ。
「詳しくは聞かないさ。それでも御前は」
「いいわ、それでも」
だが、だ。シェリルはこう言うのであった。
「私はね」
「最後まで歌うのか」
「・・・・・・ええ」
また俯いての言葉だった。
「ただね」
「ただ。何だ?」
「今幸せよ」
「幸せなのか?今は」
「だって。傍にいてくれるから」
シェリルは今はあえて横を振り返らなかった。
「だからね」
「それでか」
「それでよ。ねえ」
「ああ」
「このままこの時間が続くかしら」
「続くだけ続けたいのか?」
アルトはシェリルに問い返した。
「御前は」
「そう思ってるけれど」
「ならそうすればいいさ」
これがアルトの返事だった。
「俺はそう思う」
「そうなの。じゃあ」
「ああ、こうしていたいんだよな」
「ええ」
「いいぜ、そうしなよ」
「有り難う・・・・・・」
二人は今は共にいた。そうしてであった。
シェリルは次の日レオンの執務室でルカと話した。当然レオンも一緒である。
「つまりシェリルさんはです」
「ええ」
「そのウィルスが体内に入っていて」
「それでなのね」
「もう脳に達しています」
そうなっているというのである。
「そうなればもう」
「楽しい?」
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