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アドリアーナ=ルクヴルール
第四幕その一
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ら」
 そう言ってお金も手渡した。
「薬だよ」
「わかりました」
 使用人は紙とお金を受け取るとその場を後にした。彼女はどうやら字が読めるらしい。
「ふう、これで良し。彼女が字を読めるのが幸いしたな」
 彼はそう言って席に戻った。そこへアドリアーナが入って来た。
 白い部屋着を着ている。顔色は良くない。表情も暗い。ミショネの言葉通りやはり何かしら心に悩みを持っているようだ。
 ドアの端のところで立っている。動かない。それはまるで額縁の中の肖像画のようであった。
「ミショネさん、よく来て下さいました」
 彼女は微笑んで言った。
「ええ。たまには顔を見せようと思いまして」
 ミショネは席を立ち一礼して言った。
「あまり気分が優れないようですね。何故そのように顔を暗くさせているのです?」
 その訳はよくわかっている。だがあえてそれを尋ねた。それは彼女の事が心配でならなかったからだ。
「眠れなかったもので」
 彼女は答えた。力無い声であった。あの公爵夫人に見せた気丈さは何処にも無い。
「まだ忘れられませんか?」
 マウリツィオが政治的事情で故郷に帰ってしまったのだ。彼女にとってそれは大きな痛手だったのだ。
 健康を害した。そして舞台も休演し今こうして床に着いていたのだ。
「はい。忘れられるものではありません」
 彼女は青い顔でそう言った。ミショネはその顔を見て言った。
「それはよくありません。早くふっ切れた方がいいです」
「それはわかっているのですが・・・・・・」
 そうは出来ないのだ。それが人の心というものの難しさだ。
 アドリアーナも忘れてしまいたかった。そうすれば楽になれるのだから。だがそれは忘れられる程想いの弱いものではなかったのだ。
 想いが強ければ強い程人はそれを忘れられない。そしてその想いに悩まされ苦しめられるのだ。それも又人が人である由縁なのだ。アドリアーナはそういう意味でもあまりにも人間的であった。
「劇の事は?」
 ミショネは話題を変えた。彼女が命を捧げるもう一つのものに。
「考えられません」
 アドリアーナは頭を振って答えた。
「名声は?女優としての」
「そんなもの・・・・・・。砂上の楼閣ですわ」
 事実であろう。この世にあるありとあらゆるものはそうである、という人もいる。
「芸術家としての・・・・・・」
 ミショネはまだ言おうとする。どうしても彼女を振るい立たせてあげたかった。もう一度、あの女優として。
「自覚、ですか?それももう・・・・・・」
 彼女はそう言って力無く笑った。彼女の沈んだ心はやはり起きなかった。
「・・・・・・・・・」
 ミショネは沈黙した。どうしてもアドリアーナを起き上がらせたい、最後の手段に出た。
「もう一度舞台に戻って下さい。貴女を愛する人
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