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アドリアーナ=ルクヴルール
第三幕その三
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「伯爵が来られました!」
 その言葉に一同入口へ顔を向けた。アドリアーナは蒼白だった顔をたちまち紅潮させ息を弾ませた。公爵夫人はそれを見て内心歯軋りした。
「アドリアーナさん、落ち着いて。喜びをあまり表に表すのはどうかと思いますよ」
 ミショネがそんな彼女を窘める。アドリアーナはそれに従い心を静めた。だがその目は入口を向いたままであった。
 すぐにマウリツィオが入って来た。ここにいる客人達と同じく礼服で正装している。
「あれっ、ご無事ではないか」
 公爵は彼の姿を見て思わず呟いた。
「伯爵」
 そして自分の前に来た彼に話しかけた。
「丁度今貴方が決闘で重傷を負われたという話が出ていましたが」
「えっ、私がですか!?」
 彼はその話を聞いて思わずキョトンとした。
「はい、どうやら間違いだったようですね」
「まあ決闘沙汰になったのは事実ですが。その寸前に和解したのですよ」
「そうですか。それがそういった話になったのですね」
 公爵は彼なりに話を理解した。だが真相は知らない。
 マウリツィオは公爵夫人のところへ来た。そしてその足下に跪き手に接吻した。
「貴女の為にこおに参りました」
「有り難うございます」
 公爵夫人はその言葉に満面の笑みを浮かべた。
「あの時は無事に別荘から出られたみたいですね」
 彼は小声で公爵夫人に囁いた。
「はい。運良く」
 公爵夫人も小声で返した。
「それは良かった。後で来た時にはもうおられなかったので」
「神が私をお救い下さいましたので」
「それを聞いて安心しました」
 アドリアーナは二人がヒソヒソと話すのを見て内心不快に感じた。
「一体何を話しているのかしら・・・・・・」
 密会や逢引の事では、と思うと心が引き裂けそうになる。
 しかしこの場ではそれは抑える。そしてそっと耳をそばだてる。

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