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いらだち
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握り呟いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ベッドサイドで座る優は、携帯で時刻を確認するともうすでに正午を過ぎていた。優はユキの手を少し強く握って言った。

「そろそろ帰るな。またすぐに来るから」

 返事が返ってこないことがわかっていても、こうやって声をかけ続けたら目を覚ますかもしれないという希望を持っている。しかし、彼女はやはり言葉を返してこない。苦笑してから立ち上がろうとするとき小さな電子音がした。振り返ると、二人の女性と二人の男性が病室に入ってきたところだった。

「おお、来ていたのか。如月君」

 スーツが似合う少しダンディーなおじさんが本庄竜太氏。ユキのお父さんで大手の化粧品メーカーの社長。その横にいる、少し控えめな化粧で見ただけで高いものとわかる服を着ているのは、ユキのお母さんの本庄恵子さん。元は結城家の人間らしい。そしてその隣にいるユキ似ているが三、四歳年上のお姉さん、本庄春香さん。それともう一人は三十はいっていないが二十の後半だろう。この男は初めてみる。

「こんにちは、お邪魔しています。本庄夫妻に春香さん」

「いいのよ。如月君。この子も友達に来てもらえて喜んでるでしょうから」

 本庄夫妻はユキの元に行き、長い髪をゆっくりと手ぐしでとかした。春香さんは俺の近くに来て頭を下げる。

「ありがとう。雪乃はね、ママやパパが厳しすぎるせいであまり友達が出来なかったの。だから、あなたみたいな友達が出来て雪乃も喜んでるわ」

 そう言って恵子もユキに近づいて行った。その時、小声で男に話しかけられる。

「やあ、君があのSAOの二人の英雄のうちの一人らしいね」

 そのほうに目を向けると男はユキの方を見ながら話しかけていた。

「俺は英雄じゃないですよ。ただのプレイヤーです」

「ふっ」

 そう言うと男は鼻で笑った。それにムカつくが顔には出さないでおく。そして、ようやくユキから離れた竜太氏は男のことを紹介した。

「そういえば、君達が会うのは初めてだろう。彼は玖珂宗氏(くがそうじ)君だ。彰三さんのところの研究主任をしている須郷君の部下だ。彼と私は長い付き合いでね、家族同然なんだ」

 ぺこりとお辞儀をする。そして顔を上げると俺だけに見えるように口を吊り上げて笑った。

「叔父様、あの件なんですが」

 玖珂は口を元に戻して竜太氏に向き直る。

「来月にでも。正式にお話を決めさせていただきたい」

「そうか。だが、いいのか。君はまだ若いんだ、新しい人生だって選べるんだぞ?」

「いいんです。私は昔からもう決めてますから。雪乃が、今の美しい姿でいる間に……ドレスを着せてあげたいんです」

「……そうか。私もそろそろ覚悟を決めないとならないかもな
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