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アドリアーナ=ルクヴルール
第一幕その一
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回の舞台で監督を務めているようだ。
 監督といえば地位が高そうだが当時はそうではなかった。俳優、とりわけプリマ=ドンナと呼ばれるトップ女優の地位が最も高く舞台監督は雑用に過ぎなかった。だが雑用なくして舞台が成り立たないのも事実である。雑用を馬鹿にする者は何事においても大成しないものである。舞台においてもしっかりした縁の下の力持ちなくしてはいい舞台は無い。
「白粉は何処!?」
「あの上ですよ、マドモアゼル!」
 彼はそう叫ぶと棚を指差した。
「監督!」
 今度は庶民の服を着た男優が彼を呼んだ。
「紅は何処ですか!?」
「そこに引き出しですよ、ムッシュ!」
 彼はその男優が座っている台を指差した。
「監督、私の扇は何処へいったの!?」
 赤髪の小柄な女優が尋ねた。
「僕のマントは!?」
 高官の格好をした男が叫んだ。
「はい、扇もマントもこちらにありますよ!」
 箪笥を開けて扇とマントを取り出す。そして二人に走りより手渡す。
「監督手伝って!」
 白粉と紅で化粧をしている二人が彼を呼んだ。
「ちょっと、私の手は二本しかないんですよ!」
 監督は思わず悲鳴をあげた。
「そんなのいいから錠剤持って来て!」
 四人共聞いてはいない。それどころではない。赤髪の女優がまた叫ぶ。
「付けほくろ!」
 トルコ服の女優の催促。
「バンドは!?」
「剣を持って来て!」
 男優二人が監督を呼ぶ。
「早く、早く!」
 四人は催促する。もうたまらない。
「はい、全部ここに!」
 四人に満足してもらう為に箱をぶちまけ引き出しを抜いて装飾品をよりだし化粧品を手渡す。そして呟いた。
「監督、監督、って私は神様じゃない。そんな何でもすぐに出来る筈もないじゃないか。何でも私に押し付けて面倒は全て私持ち・・・・・・。もう我慢出来ない」
 はああ、と溜息をつく。
「監督どうしたの?」
 庶民服の男優が首を傾げた。
「舞台監督とは名前はいいがとんだ仕事だ。毎日毎日朝から晩までお喋りのお相手に喧嘩の仲裁、演出に設定、そして打ち合わせ・・・・・・。私は一人だよ、なのに何故何人分もの仕事をいつもしなくちゃならんのだ!?」
「またいつものぼやきね。さてと、最後の仕上げね」
 トルコ服の女優は彼から視線を外し化粧に取り掛かる。
「役員か劇場主にでもならないと休みなんか取れそうもない。一体何時までこんなことをしなくちゃならないんだろう」
 そんな彼をよそに俳優達は自分のことに余念が無い。

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