第三十話 ファーストアタック
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しから言うことはそれだけよ。それじゃあ」
「それじゃあ?」
「歌を聴きましょう」
前を見ての言葉であった。
「いいわね、ゆっくりとね」
「わかりました」
「あらあら、やるわね」
ボビーの顔はにこやかなものになっていた。
「デュエットだなんて」
「デュエット!?」
「ほら、見て」
うっとりとした顔でアルトに話す。
「今のシェリル=ノームをね」
「シェリルを」
「それとランカちゃんもね」
彼女もだというのである。
「ほら、よく見なさい」
「よく」
「そう、よくよ」
また言ってみせる。するとだった。
シェリルとランカは共に歌っていた。視線を絡み合わせて。
アルトもそれを見てだ。少し思うのだった。
「あれは」
「わかったわね。今の歌が」
「あ、ああ」
戸惑った顔であったがそれでも頷きはした。
「言葉じゃ言い表せないけれどな」
「感じるだけで充分よ」
それだけでだというボビーだった。
「それだけでね」
「感じるだけでか」
「そう、本当に大切なものに言葉はいらないわよ」
「何かマルコさんの言葉ってな」
「時々哲学的になりますよね」
「恋愛は哲学よ」
ボビーはミシェルとルカに応えた。
「だからよ。あたしはいつも哲学の中にいるのよ」
「それを考えたらボビーさんは哲学者なんですね」
「そうなりますね」
「そうよ。あたしは愛の哲学者」
自分でもこう言う。
「わかっておいてね」
「はい、それは」
「わかりました」
そんな話をしてだった。そのうえでだ。
「じゃあ俺達も今は」
「音楽を聴かせてもらいますね」
「アルト、いいな」
「聴きましょう」
「わかった」
アルトは再度二人の言葉に頷いた。しかし今度は憮然とした顔ではなかった。
真剣な顔で頷いて。そうしてだった。
「それじゃあな。真面目にな」
「ああ、聴こうぜ」
「静かに」
「心か」
アルトはこれまでの言葉を心の中で反芻しながら述べた。
「それがか」
「恋愛は哲学よ。それに」
ボビーはまた話す。
「音楽も哲学なのよ。覚えておきなさい」
「今はよくわからない」
「後でわかるわよ。だからね」
「覚えておくことか」
「そういうことよ。いいわね」
そんな話をしたうえでだ。シェリルとランカの歌を聴くアルトだった。今はそうしていたのだった。
第三十話 完
2010・5・23
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