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戦国異伝
第百十三話 評定その十二

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「何があろうともな」
「では佐竹はですか」
「このまま頑張ってもらいますか」
「そうする」
 氏康は今断を下した。
「伊達とは直接揉めたくはない」
「武田、上杉がおります故」
「それ故に」
「うむ、敵は少ない方がよい」
 逆に言えば多いとそれだけ窮地になる。要するにそういうことだ。
「だからこそじゃ」
「はい、それでは」
「そうしていきましょう」
「おそらく奥羽はあの独眼龍の荒れ狂うままになる」
 誰も伊達政宗に対することができないというのだ。
「流石に最上家や南部家が簡単に滅びるとは思えぬがな」
「しかし蘆名は」
 この家の名前を出したのは幻庵だった。彼は今も健在であり北条家の長老、そして知恵袋であり続けている。
「違いますな」
「うむ、叔父上の仰る通りだ」
 氏康も叔父であり家の長老である彼には敬意を払って応える。
「蘆名家は危うい」
「伊達に攻められますな」
「しかし最早蘆名に伊達の勢いを止めることはできぬ」
 つまり敗れるというのだ。
「佐竹が必死に助けるにしてもな」
「家中がまとまっておりませぬ」
 蘆名が危うい要因はここにあった。
「それでは」
「敗れるのう」
「そうなるかと」
「やはり佐竹じゃ」
 この家が伊達とぶつかるというのだ。
「あの家が伊達と対することになる」
「では我等はその佐竹を助け」
「そして防いでもらうとしよう」
「そうされるのがよいかと」
「関八州は手中に収める」
 北条の目標はそこにあった。このことは変わらない。
 そしてそれが為に佐竹に伊達を防いでもらい武田、上杉とも出来る限り衝突を避けるというのだ。そのうえだった。
 氏康はあらためて二十八将の面々に告げた。
「この関東、見違えるまでにするぞ」
「豊かな場所に」
「そうされますか」
「この地は必ずそうなる」
 治めればだというのだ。
「近畿と並ぶまでにな」
「川が多うございますし」
 大道寺が言った。
「しかも平野ですしな」
「土や水がよくないにしてもじゃ」
 それでもだと言う氏康だった。
「必ずな」
「豊かな地になりますな」
「田を開墾し町を築いていく」
 堤は言うまでもない。
「そしてそのうえでじゃ」
「関東を賑やかにしましょうぞ」
「是非共」
 北条家は織田家を見ながら自分達のことも考えていた。関東を手中に収めこの地をこれまでとは全く違う豊かな場所にしようというのだ。
 信長の評定は遠く関東にまで伝わっていた。その評は彼を確かな者とみなすのに充分過ぎる程のものだった。


第百十三話   完


                  2012・11・4
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