第百十三話 評定その十一
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「武田も上杉も精々三万、関東中を合わせても八万じゃった」
北条氏の今を築いた河越夜戦の話もした。この戦で勝った北条氏は勢力一気に伸ばし今や関東を席巻せんとしている。
そのことも入れて氏康は言う。
「しかし織田は十九万ぞ」
「この小田原城でも陥ちますか」
その河越の戦で獅子奮迅の働きをした北条綱成も言ってきた。
「十九万の大軍なら」
「いや、それはないでありましょう」
「そうですぞ。小田原城は普通の城ではありませぬ」
他の将達が綱成に口々に言う。
「幾ら何でも」
「この城だけは」
「しかもです」
今度言ったのは成田長泰だった。
「この城だけではなくそれがしが守る忍城等多くの城があります故」
「小田原城を軸としてそれぞれの城が連携して戦えば」
「陥ちぬどころか織田軍を退けられますが」
「それがしもそう思います」
「それがしもまた」
二十八将達が口々に言う。綱成自身もやはりこう言った。
「左様、そうした多くの支城も使えば例え十九万の兵でも陥ちませぬな」
「わしもそう考えておる」
氏康が初代の早雲から培ってきたものを完成させた。それだけに絶対の自信があることだった。
それで彼自身も言った。
「北条の領地はそう簡単に脅かすことは出来ぬ」
「はい、その通りです」
「出来るものではありませぬ」
「この小田原城だけではありませぬ故」
「それはできませぬ」
「だが織田信長は強い」
氏康は確信していた、信長が己や信玄、謙信に匹敵する傑物だと。
「油断は出来ぬぞ」
「ですか。それでは」
「若しここに来た時は油断してはならぬ」
「そういうことですな」
「決して」
「その通りじゃ。武田とは今は手を結んでおるし上杉ともよりを作った」
北条にとっても彼等は最大の脅威だがその両家に対しては外交を通じて脅威としなくなったのである。これも氏康の戦略だ。
だがそれで万全ではない、北条の脅威はまだあった。
「結城だの里見なりは飲み込むがな」
「そして佐竹もまた」
「そうされますか」
「いや、佐竹は存外強い」
この家については氏康はこう述べた。
「佐竹義重はのう」
「伊達に鬼義重とは呼ばれていない」
「そういうことですな」
「そうじゃ。それにあの者は伊達への抑えになる」
氏康の目が鋭くなった、そのうえでの言葉だった。
「独眼龍じゃが」
「伊達政宗ですか」
「噂には聞いております」
彼のことは関東にも聞こえだしていた。
「騎馬隊に鉄砲を持たせて戦っておるとか」
「それが恐ろしいまでの強さだとか」
「奥羽の地はあの者のものになりかねないとか」
「最上氏も警戒しておるそうですし」
「かなりの者の様ですな」
「あの者の野心は聞いておる」
氏康もまた耳はいい、多く
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