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ヴァレンタインから一週間
第11話 蒼い少女
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晶宮の端に名前を連ねる者、武神忍」

 一応、新たに現れた蒼い少女の問いに対して、そう答える俺。……なのですが、あの異界化した空間に侵入出来る存在が、早々、存在しているとは思えませんね。
 まして、俺は彼女から、長門と同じような雰囲気を感じているのですが。おそらくその部分が、彼女から感じた奇妙な感覚の正体なのでしょう。

 そう。つまり、俺は、彼女の中に、長門有希と言う名前の少女型人工生命体を感じたと言う事だと思います。

 俺の答えを聞いた少女は、それだけで満足したのか、そのまま立ち去ろうとする。
 いや、おそらくは、これ以上この場に留まる事は、彼女に下されている命令に合致しない行動だったのでしょう。
 しかし、

「せめて、名前だけでも教えて貰えないんやろうか?」

 立ち去ろうとする蒼い少女の背中に対して、そう問い掛ける俺。
 その声に反応して、少し振り返る少女。そして、青白い人工の光に照らし出された紅い瞳が、真っ直ぐに俺を映した。
 闇の世界に浮かび上がった少女は……。憂いを湛えたその麗貌は、この年頃の少女に相応しい雰囲気……。うかつに触れるだけでも儚く消えて仕舞いそうな危うさと、繊細さを同居させていた。

 長門と彼女。果たして、どちらがより正確な天の御使いの化身で有ろうか。
 ……いや、長門は邪神の眷属。聖典の中の一節を信用するのなら、すなわち、悪魔(サタン)が光の御使いの姿を装うは珍しきことにあらず。……と言う事。ならば、彼女こそが本当の天の御使いと言う事と成るので有ろうか。

 いや、違う。そう言えば、彼女も死に神の鎌を振るう存在でしたか。

神代万結(かみしろまゆ)

 長門と同じ抑揚に乏しい平板な口調で、自らの名を口にする蒼き少女。
 その吐息が纏う白い装い。
 そして、その事実が彼女が夢幻の存在などではなく、其処に実在する人物の証。

「そうしたら、万結」

 俺に名を告げた後、先ほどと同じように、くるりと踵を返して立ち去ろうとする少女を再び呼び止める俺。
 その際、俺に近づいて来ていた長門が、一瞬、その歩みを止めた。何か、よく判らない、複雑な気を発した後に。
 いや、長門が発したのは少しの違和感。これは、おそらく……。

 三度、振り返った紅い瞳の少女が、俺を真っ直ぐに見つめる。ただ、不思議と苛立ちのような雰囲気を感じる事はない。
 そして、同時に、俺に対して、完全に無関心と言う雰囲気ではない事も感じられた。

「さっきは、危ないトコロを助けてくれて、有り難うな」

 蒼茫と暮れ行く屋上で、相馬さつきと名乗った少女に対して告げたように、月下の公園で出会った神代万結と名乗った少女に対しても、同じように礼と成る言葉を告げる俺。
 その台詞を聞いた万結が
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