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ヴァレンタインから一週間
第11話 蒼い少女
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 それに、この異常事態が発生したのは昨夜。俺が、この世界に島流しに成った瞬間から始まったと考えるのなら、未だ土地神を完全に封じ切っていない可能性も有るはずです。
 その時に、……残りの土地神を封じている最中に、大きな正体不明の気を発して居る存在の元に、何モノかがやって来る可能性も有る、と思っていたのですから。

 もっとも、ラゴウ星などと言う、神話級の邪神が顕現するような異常事態ですから、その邪気に当てられた悪鬼や妖魔の類が活性化して、姿を顕わせた可能性も低くはないのですが。

「口上を述べる……心算はないようやな」

 俺の正面。大体十メートル程の距離までゆっくりと接近して来た黒い男に対して、そう問い掛ける俺。
 ニヤリっと、男が嗤った。
 異世界の夜に相応しい、鬼気を発する嗤い。少なくとも、好意を得られる類の笑みでない事だけは確かでしょう。

 ならば……。

「長門さんは、手を出さずに見て居てくれるかな」

 俺は、傍らに立つ少女に対して、そう告げる。それに、彼女の実力は判らない以上、この場は俺のみで対処して、彼女には俺の戦いを見て置いて貰うのも悪くはないとも思いましたから。
 何故ならば、俺の傷は回復可能ですが、彼女に俺の行使可能な治癒魔法が、効果が有るかは判りませんからね。

 俺のその言葉に、少し微妙な気を発した長門でしたが、しかし、言葉にしては何も告げる事もなく、数歩、後方へと下がり、街灯の明かりの下に身を置いてくれました。



 突如現れた刃渡り六十センチメートルほどの、眉と瞳が文様として刃に刻まれた二振りの柳葉刀を構え、俺との距離を詰める黒き男。その無造作な動き。しかし、全身の余分な力を抜いたようなその構えは、それだけで鉄壁の城塞を想像させる。

 瞬間、男が爆ぜた。いや、違う。爆発的な勢いで跳び上がり、その闇よりも暗い腕の先に煌めく銀の光が、俺の肩口より――――。
 しかし、その瞬間、俺の姿がぶれる。そう。長門と、おそらくは相対する黒き男からは、間違いなくそう見えたはず。

 肩口より侵入した右の柳葉刀の一撃が、俺を完全に両断し振り抜かれた瞬間!
 その一瞬前まで男の正面に居たはずの俺が、黒き男の左側に現れる。

 そう。ソロモン七十二の魔将の一柱。魔将アガレスの職能により、加速状態となっている俺を捉えるには、人ならざる存在の黒い男でも僅かばかり足りない。
 そして、その瞬転。俺の残像を両断した右腕の方ではなく、回転力を利用して二の太刀を放とうとした男の左腕が、周囲に男自体を構成する呪力を撒き散らせながら夜空に舞った。

 男の口より、夜気を鋭く斬り裂く絶叫が放たれた。その獣にも似た叫びが、しかし、彼が夢幻の存在などではなく、現実に其処に存在しているモノで有る証。
 
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