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ヴァレンタインから一週間
第11話 蒼い少女
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て驚いた訳では有りません。
 まして、俺が近付いた事に対する拒否感の現れと言う訳でもないでしょう。

 何故ならば、

「ありがとう」

 俺をその澄んだ瞳に映しながら、そう答えて来る長門。そして今回は、彼女の口元を、彼女の吐息が白く凍らせる事もなければ、風がセーラー服姿の彼女を凍えさせる事も有りませんでした。

 少し笑って、その言葉に答える俺。先ほど長門に一歩近づいた理由は、彼女を起動させた炎の精霊(サラマンダー)の影響下に入れたと言う事。そして、周囲の変化に気付いた彼女が、その理由に思い至って、感謝の言葉を伝えて来たと言う事でも有ります。
 もっとも、ここに至るまでにそんな事に気付きもせずに、ただマヌケ面を晒しながら上空をぼぉっと見上げていた俺がアホなだけで有って、彼女に礼を言われるほどの事を為した訳ではないのですが。
 俺の煮えた頭に、二月の冷たい風と大気はちょうど良かったとしても、彼女に取って心地よい気温とは限りませんでしたから。

 その次の瞬間。長門の雰囲気自体が変わった。その理由は……。

「今、送った夜空の映像が、俺に見えている現在の夜空。俺の目か頭がおかしいのか、それとも……」

 この世界自体が狂っているのか。
 俺は、敢えて実際の言葉にする事もなく、余韻を持たせるようにして、長門に対してそう告げる。

 それに、どちらにしても、今の俺には、幻の月が顕われるように成るまで発展した異常事態をどうこうするだけの――――。

 刹那。天空で輝く蒼き女神が一際、蒼く輝いたような気がした。
 この感覚は……。

 そう。そして、視線を移した先。公園の入り口から闇よりも黒い影を纏いし巨躯が顕われた事を確認したその瞬間、世界が変わったのだ。

 それまでは、この公園内にこそ、俺と長門以外の人影は存在して居ませんでしたが、それでも、直ぐ傍には確かに人が暮らす通常の世界が存在していました。
 そう。公園の傍らを走る道路には自動車が走り、寒い冬の夜とは言え、ちらほらと存在していた家路を急ぐ通行人が存在していた通常の冬の夜が……。

 今では、異世界の夜へと変貌していた。

「……来たか」

 ゆっくりと接近して来る黒き影を瞳に映し、俺がそう口にした。
 蒼く玲瓏なる容貌(かんばせ)を地上に見せる女神の下、ぼぅと立ち尽くす黒い影。
 真冬の冷気を纏いし巨躯は黒い……、武侠小説に登場するような衣装に身を包んだ男であった。

 ヤツが発するは鬼気。人が放つ雰囲気には非ず。まして、長門は未だしも、俺がこの場に居た理由は、自らを囮として、人外のモノを誘き寄せようとしたから。
 故に、気を隠す事もなく、また、罠と取られかねない陣を敷く事もなく、この場にただ存在していただけですから。


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