暁 〜小説投稿サイト〜
ヴァレンタインから一週間
第11話 蒼い少女
[1/7]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 肌寒い風が吹き付ける長門のマンション。其処はこの季節、この時間帯に相応しい佇まいを示し、
 そして、高き近代的な建築物の直ぐ傍に有る冬に相応しい様相の木々と街灯。それに、少しの遊具が存在する場所。
 そう、それは都市の真ん中に存在する僅かに自然の残された公園。其処を、煌々と光を降り注ぐ真円に近い蒼の女神と、そこから遥か西の空に傾く地点に存在する月齢にして三程度の紅の女神が、彼方より真冬の澄んだ大気に沈んだ世界を照らし出していた。

 ………………。
 …………。

「なぁ、長門さん」

 公園にやって来て夜空を見上げて以来、一言も言葉を発しなかった俺が、ようやく傍らに立つ少女に対して声を掛けた。
 青白い人工の光に切り取られた夜の世界に佇む少女。その均整の取れた眉と双眸の配置。すっと通った鼻梁からくちびるに続く造形には、標準以上の美を感じさせる。

 そんな俺を真っ直ぐに見つめる長門。
 正直に言うと、彼女に真っ直ぐに見つめられると、あっさりと気圧されて、視線を逸らしそうになるのですが……。
 しかし、今はそんな些細な事を気にしている余裕は有りませんか。

「この世界の地球の衛星は月と、もうひとつ、何か別の衛星が存在するのかな?」

 視線を彼女(透明な姫)の元から、上空の蒼き女神の方に逸らした後、そっと洩らしたため息にも似た吐息が、俺の口元を白くけぶらせた。
 しかし……。

 俺の問い掛けに対して、静かに首を横に二度振る長門。これは、否定。だとすると、彼女にはあの空に存在するふたつの月の内のどちらかひとつが見えていない、もしくは、ふたつとも見えていない事となるのでしょう。
 もっとも、あのふたつの月の内のどちらか片方が、俺にしか見えていない月で有る可能性もゼロではないのですが。

 そう。他の誰にも見えない、狂った……この世界では異分子に当たる俺にしか見えない幻の月で有る可能性が。

「地球の衛星はひとつしか存在していない」

 冬の夜気に相応しい表情を浮かべたままで、抑揚の少ない平坦な口調でそう告げる彼女の口元を、白く吐息がけぶらせ、そして、その白き余韻も、高層ビルの間を吹き付けるに相応しい風により、直ぐに消えて仕舞う。
 現実感の乏しい。いま其処に居ながらにして、何処か遠い世界の住人の装い。

 そして同時に、俺は軽いため息と共に、自らの迂闊さと無能さを改めて思い知る事と成ったのは言うまでも有りません。

「そうか。なら、今、俺が見ている夜空の映像を【送る】から、見て貰えるかな」

 俺が少し……。ほんの半歩分、彼女に近付きながら、そう話し掛けた。
 その瞬間、彼女の形の良い眉に、少しの動きが発生した。但し、これは俺の見ている映像を送る前の事なので、ふたつの月の【映像】に関し
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ