第五章 『魔への誘い』
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でいたのである。
「とう、さん! 父さん」
ネギは父を呼びながら走り出していた。今まさに村を蹂躙している悪魔に抗うことは頭に無かった。闇の魔法という禁忌を犯してまで手に入れた力を使う事すらだ。ただ先ほど感じた父の存在にすがろうとするだけだった。
気が付けばネギは、村のそばにある湖畔に来ていた。そこは昔、ネギが自分が危機に陥れば“千の呪文の男”、つまり父が助けに現れると考えて自ら溺れた場所であった。違うとすれば、その時は雪が降り積もる真冬の季節だったことだ。
「……父さん」
父を求めるその声は、今にも消え入りそうに弱々しい。
ネギはふらふら、と水辺へと近付いていく。無意識なのか、それとも父が助けに現れると信じてかは分からない。
そしてネギが水際に立った時、水面には悪魔が映っていた。黒く硬質化した顔に浮かぶ、全てを燃やし尽くしてしまいそうなほどに紅い目。そして三本の角を生やしている。人間とはかけ離れた禍々しい姿。まさに魔族の姿である。
だがそれは村を襲っている悪魔達の姿ではない。水面に浮かぶ姿は、誰あろうネギのものだ。
ネギは顔に手を当て、自身の姿を手で確かめていた。しかし特別皮膚が硬くなっているわけでもなければ、頭に角が生えている感触もない。それに湖畔に映る手も皮膚が黒く爪が先鋭化していたが、目に見える自身の手は普通の人間の柔らかい皮膚のままだ。
「これは、一体――」
ネギが水面に手を伸ばした時だった。水面に波紋が波打ったと思うと、次の瞬間、水しぶきを上げて何かが飛び出してきた。そしてネギの首を鷲掴んだ。それは間違いなく水面に映っていたネギの黒い手だ。その手はネギの首を締め上げ、肥大化した爪が肉に突き刺さる。
「ガッ、ァッ!」
痛みと圧迫から逃れようと、ネギは黒い手を引き剥がそうとする。しかし全くビクともせず、頚椎が悲鳴を上げる音が聞こえはじめた。
そして黒い手はネギを湖畔に引きずり込もうとする。ネギはそうはさせまいと力を振り絞って抵抗を試みる。しかしそれも虚しく、呆気なくネギは湖畔へと引きずり込まれる。水面に接した瞬間にネギを待っていたのは、大きな口を開けて自分を喰らおうとする悪魔の姿と、黒い悪魔の腔内だった。
「ハッ――ハッ――!」
気が付けばネギは飛び起きていた。額には脂汗が浮かんでいる。心的外傷となった出来事に、更に悪魔となった自分に食われる夢など決して夢見のいいものではないだろう。しかしネギにとっては、最後に見た悪魔の口の中方が恐ろしかった。なぜか分からなかったが、往年の心的外傷をほじくり返すこととはまた別の強烈な嫌悪感があった。
「ネギ君大丈夫? 怪我は大体治しといたけど、まだ痛いとことかあらへん?」
「えっ?」
自身への問いかけの声を聞い
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