第五章 『魔への誘い』
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いるにしては、険悪な雰囲気はなかったからだ。
「ほら起きな、ネギ」
その声と共に、ネギの頭へ誰かの手が乗せられ、クシャッと撫でた。慈愛を感じる大きな手に撫でられ、くすぐったくも感じたが、もう少しこうしていたいとネギは思った。しかし起きるように促されていた事もあり、ねネギは渋々目を開ける。
「ん……」
閉じていた瞼を開くと、まばゆい陽射しに視界は真っ白になる。目が少し痛くなるが、すぐに慣れて風に揺れる葉が目に映った。そして人影のようなものも視界にあった。逆光のために顔は分からなかった。しかしネギは口を開いてこう呟いた。
「父……さん?」
ほぼ無意識だった。確証たるものはないが、聞こえてきた声と頭を撫でられた感覚は、在りし日の父のものだった。
しかしネギが瞬きをするとその人影はなくなり、葉が揺れている光景があるだけだった。
「?」
見間違いだったのだろうか? とネギは思いつつ、体を起こした。擦って覚ました目を辺りに向けても、人影はなかった。緑が一面に広がる丘と、大きな湖畔が見えるだけだ。
「ここは、ウェールズ?」
ネギはこの風景をよく知っている。幼い頃過ごしていたウェールズだ。よく遊んでいた丘から見える景色と寸分違わない。どうしてここに居るのかネギが考えを巡らそうとした時、遠くから声が聞こえてきた。
「ネギー!」
ネギを呼ぶ声はだんだんと近付いてくる。その方向に目を向けると、次第に声の主の姿が見えてきた。
「お姉ちゃん!」
ネギを呼んでいたのは、彼の従姉であるネカネ・スプリングフィールドである。ネカネは微笑みを浮かべながらネギへ駆け寄っている。そしてネギも立ち上がって、ネカネへ向けて駆け寄っていく。
期間としては二ヶ月にも満たない間ほどしか会ってないはずだが、もっと久しく会ってないような感覚だった。自然とネギの心も躍る。
だが、歩み寄った二人の手が触れた瞬間、景色が変わった。
緑に覆われていた美しい野原は無残に踏み荒らされ、透き通るように青かった空には暗雲が立ち込めていた。さらに辺り一帯は火の手が上がっているのか、赤い炎と黒煙が延々と立ち込めている。そして、微笑みを浮かべていたネカネの顔が、文字通り石のように固まり石像になった。
「お姉……ちゃん?」
ネギの呼びかけに、ネカネからの返事はない。いつもの見慣れた笑顔を、微動だにせずにネギへ送っていた。ネギは後ずさりながら、同時に理解した。
心的外傷。これは未だに自身の心的外傷として心の奥底にこびり付いた6年前の光景だと。更にネギの場合、心的外傷であるこの光景が一種の生きる原動力であった。その為、いくら乗り越えたと言えどもそう簡単に消える事はなかった。深層意識の奥底にくすぶる様に潜ん
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