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戦国御伽草子
弐ノ巻
輪廻

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たちは佐保に行った。最後くらい生まれ故郷の佐保で過ごさせてやりたいと思ったのだ。佐保彦も、守ってくれると言ってくれた。



 御影の死の間際、あたしたち全ての(まこと)をひっくり返すような話を聞く。



 本当は、御影の方が霊力を持つ身であったけれど、妹姫(おとひめ)である大闇見戸売(おおくらみとめ)を殺されたくないが一心で、その霊力を大闇見戸売が顕わしているように見せていたこと。



 それは、つまり、大闇見戸売の産んだ、佐保彦佐保姫の兄妹こそが予言された滅びの子であるということを、知ってしまった。



 そして御影は死んだ。本当の、佐保の姫巫女が。













 そんなふうにして真澄のために事細かに説明しているうちに、思い出はせつなく鮮やかに甦り、それは決して辛いことだけではなかった。楽しいこともあった。兄妹はときどき声を出して忍びやかに笑った。
 涙が滲みながら笑う、それは幸せな喪の(とぎ)だったかもしれない。喪の伽は、そうした涙と笑いのためにあると思えたほどだった……。
「もっと話して、真澄。なんでもいいから」
 真秀は兄のそばに立ち、おなじように草壁に(もた)れて、おなじように空に滲む月を眺めながらいった。真澄は困ったように笑い、それからいった。
「御影の喪の伽をしていて、真秀とかわるがわる眠ったね。そのとき、よく真秀の夢を見ていた」
「あたしの?どんな夢?」
「真秀が……幸せになる夢だ」
「もっとたくさん説明して」
「……話すことに慣れていないから」
「じゃあ、話しやすいことを話して」
 しつこく頼むと、真澄はため息をついて、ふと月を指さした。
「空には月が輝いている」
「今夜の月は、あれは(おぼ)ろなのよ。秋の月はもっと、くっきりして輝いているわ」
「そう?でも、きれいだ。幻影(まぼろし)の中では幾たびか見ていたけど。この目で初めてみる月は光って見える」
「ぼやけて、潤んでいるわ。泣いているみたい」
「でも、生まれたての月みたいに、初々しくてきれいだ。真秀みたいに」
 真顔でいうのがおかしくて、真秀は小さく笑った。ふと瞼が熱くなった。
 御影を失ったけれど、まだ真澄がいる。その手応えが、唐突(ふい)にこみあげてきたのだった。
 真澄の目がものを見て、耳は音を聞き、唇は言葉を語っている。そして見るものすべてを、生まれたてのように綺麗だと喜び、言祝(ことほ)いでいる。それはこの世で望みうる、もっともすばらしいことのひとつに思える。真澄は声と耳と目を得て、新しく生まれたもおなじだ。
 真秀はふと真澄に向きなおり、腕をのばして真澄の首にまわした。そのまま抱きつき、真澄の頬に頬を押
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