弐ノ巻
輪廻
1
[4/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ともなり)してしまう。ひとつに、念いを凝らすことができないのです」
「……迷ってなどいない。いま、佐保姫のことを考えていたんだ。だから、心が揺れていた。それだけだ」
「佐保姫のことを……佐保姫に似た、真秀のことをではなく?」
真澄が腕をのばして、焦げてしまった真秀の額髪のあたりに触れてきた。はねつけられるのを怯えてでもいるような、おずおずとした手つきだった。
ふいに、それまで水のように穏やかだった真澄の顔に、はげしい苦悶の表情がよぎった。
身内でなにかが火を噴き、その熱さと痛さに、耐えているような顔。
真澄がそんな顔をするのを、真秀ははじめて見たと思った。
(真秀には、ぼくより大事な人ができた。真秀は、佐保彦が好きだね)
「真澄……!」
驚いて、声をあげたときにはもう、真澄は真秀をさけるように、すばやく真秀のよこを通りすぎていった。おもい、疲れた足どりだった。
真秀はふり返り、あとを追おうとして、けれど足は動かなかった。
いままでのように、真澄の姿をみかけただけで翔ぶように駆けだすことがなぜか、できない。できないという、そのことに衝撃をうけながら、真秀は、真澄の背にむかって叫んだ。
(真澄、佐保彦は真澄に似ているのよ。だから、好きなのよ。真澄を好きなのとおんなじよ。真澄をきらいになったんじゃないのよ!)
彼らの姿がみえなくなったとき、佐保彦はゆっくりと両手で顔をおおって吐息をもらした。
手をくださずとも、真秀は死ぬかもしれなかったのに。この淡海に居つづけるだけで、燿目との誓いの半分は果たせるのに。
(ゆるせ、燿目。ぶざまな俺を……!)
もう気づかないわけにはいかなかった。真秀を救いたいと思っている自分の心を、佐保彦は認めた。死なせたくない、真秀を。これは愛しいということなのか。
滅びの子を愛しいと思う日がくるなど、だれが考えただろう。どんな悪意ある神が、こんな運命を望んだのか。だが死なせたくない。
御影とともに生きてきたあの娘、ただの一度も自分の生まれを恥じることなく生きてきたに違いない、いきいきと跳ねる白い魚のようなあの娘を、こんなかたちで死なせたくないんだ……。
互いに憎み合い、傷つけあいながら、あたしと佐保彦は惹かれ合う。
信じられなかった。けれど、ごまかせない位に大きくなっていた気持ちから目を逸らし続けることはできなかった。
その矢先に、御影が長くないことを知り、あたし
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ