弐ノ巻
輪廻
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日の昇ると呼ばれた国のある年の暮れ、淡海の湖が凍った極寒の夜明けに、あたしは生まれた。
戦国と呼ばれている瑠螺蔚が生きる今からは、1200年も前の事である。
まだ、神々の霊力がそこかしこに満ち満ちていた頃だった。巫女も多く、人は神を畏れ、精霊を信じた。今よりも、もっともっと神は身近だった。
母の御影によって、あたしは名を真秀とつけられた。真澄という歳の離れた同母の兄もいた。真澄の外見はこの上なく美しく、しかしその代わりに目も見えず、耳も聞こえず、口もきけない神々の愛児だった。
親子三人で、淡海でひっそりと暮らしていた。
淡海国は、息長という一族が治めている土地だった。子は母のものとなる。御影は息長の一族ではなかった。余所者はどの時代も変わらず集団から弾かれ、後ろ指を指される。
業病に侵されて動けない御影と、目も耳も口も使えない真澄のかわりに、あたしは幼いころから身を粉にして働いた。そうしなければ生きていく一粒の米さえ手に入らなかったから。味方はいなく、石を投げられいじめられる生活だった。けれど決して辛くはなかった。二人がいたから。
そんな中で、育ったあたしはいつしか夢をみる。
自分がいじめられるのは仕方がない。だってあたしは息長の一族じゃないのだから。ただ、御影にも一族がいるのなら会ってみたい。そこは、きっとあたしたちを拒絶したりしない。
「おまえ、真秀とか言ったわね。もう、出ておゆき。見なければよかった。佐保の女の姿など」
「佐保って、なんなの」
ようやく、それだけを言うのがやっとだった。
すでに背を向けていた氷葉州姫は、意外そうに振り返った。
「おまえは佐保の出でしょう?隠さなくてもいいわ。別に、おまえをどうかするつもりもないわ。只、見たかっただけよ。佐保の女とやらは、どれ程美しいのかを」
「じゃあ、御影は佐保とかいう一族の出なの?その一族は今もあるの?」
茫然として問い返す、その声がか細く震えた。
御影が属する部族。母なる部族。
それは、真秀がずっと知りたがっていたことだ。
父がヤマトの大豪族の首長だというのは知っている。でも、御影や真秀達母子をとうに捨てた男だ。そんな男の一族に未練はなかった。
でも、母の御影が属する部族がありさえすれば――その一族なら、自分たちを同族と認めてくれるだろう。
なんといってもこのヤマトの国の族は、みなみな母の血
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