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王道を走れば:幻想にて
第四章、その6の2:東のエルフ
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と胸が痛むのを感じつつ、慧卓は部屋を指差す。

「アリッサさん、ここが俺の部屋みたいです。アリッサさんはどちらに?」
「・・・・・・・・・そこだ」
「・・・いや、ここ俺の部屋ですから」

 慧卓が指差す所を、アリッサは指差す。潤んだ瞳はそこを見詰めて離さない。そして再び、消え入りそうな言葉で告げた。

「そこなんだ・・・」
「え?」
「・・・そこっ」
「・・・・・・どういう事なの」
「だ、だからそこに留まるんだ!私は、お前と同室なんだぁっ!!」
「・・・・・・うそ?」
「いえ、事前に主様からそのように窺っております、補佐役様。御二人は此方の部屋にて泊まっていただきます」
「な、なんでぇっ!?」
「えっ・・・いや、だったのか・・・?」
「い、いえいえいえいえっ!!嫌ではありませんよ!?寧ろ嬉しいというか、光栄というか・・・じゃなくって!なんで同室なんです!?」
「昨今の時勢から我等の村に入る者は少なく、それゆえ他の客室は既に倉庫として使用しておりまして、唯一空いているのが此方の部屋だけになっておるのです。申し訳ありませんが、どうぞ今晩は此方にてお泊まり下さい。明日には別の部屋を御用意させていただきますので」

 頭を下げるチャイ=ギィに何も言えず、慧卓は完全に口をあんぐりと開けてしまう。ちらと後ろを振り返って見ると、慧卓が咄嗟に紡いだ言葉に動揺したのか、アリッサが胸の前で手を合わせて荒く呼吸を繰り返していた。

「だ、大丈夫ですか?アリッサさん」
「お、おおお、大丈夫だぞッッ!!問題なんてあるわけあろうか!?いや、無い!!!」
(・・・アリッサ様、激しい御方)

 何とも見ていて愉快な人々であろうか。チャイ=ギィはにたりとしたい気持ちを必死に抑えながら、室内を見せた。人二人分は優に転がれそうな天蓋・暗幕付きの大きな寝台に、たった一つの横広な枕。今度こそ慧卓は思考を真っ白にして佇んでしまい、アリッサは恥ずかしそうに慧卓をちらちらと見遣るばかり。微糖を通り越して激甘ともいえる、言葉にし難き初々しき光景に、チャイ=ギィは頬の引き攣りを懸命に堪えていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


 
「け、ケイタク殿・・・着替えるから、絶対に振り向くなよ?」
「は、はいっ!振り向きません」

 結局の所、抗議の声を上げたとしてもこうなるのである。背後から躊躇いがちに聞こえてくる、衣が肌に擦れる音。やけに緊張感が胸を締め付けてきており、慧卓は振り向きたいと望む己の本能を抑え付けていた。振り向けば王国随一の美を持つ騎士の、硝子細工の如き美貌を拝む事が出来るであろうが、確実に今宵の記憶を意識を喪失するであろう。
 就寝前であるため、蝋燭の火は既に消えている。時折窓越しに光る雷が唯一の光源であり、そ
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