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王道を走れば:幻想にて
第四章、その6の2:東のエルフ
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 珠玉のような翠の瞳に滴が溜まるのがわかった。膨れ上がった思いが涙腺を緩ませて、言葉が震えている。

「もし、彼に好いた理由を問われたら、私はなんて言えばいいのだろうか・・・それを考えるだけで・・・」
「・・・お気持ちは、とてもよくわかりました。先ずは、一度お座りになられたら宜しいですわ。・・・あ、御茶も冷えてはいますがまだ残っています。一口飲むだけで、心が和らぎますわよ」

 慈愛を前面に出した言葉に惹かれてアリッサは席についてコップを両手で持つと、茶をゆっくりと口に含んだ。淡いつんとした香りが冷や水となったか、アリッサは何とか冷静さを取り戻していく。ソ=ギィも席に戻りながら、ゆっくりと語りかけていく。

「調停官様・・・アリッサ様。私も昔、夫を好いた時は同じような気持ちでしたわ。何時からか、どうしてか分からないのに、あの人の事を想うだけで胸が苦しくなりました。一生懸命、その方を好いた理由を探そうと懸命になった時期も御座いました。夫は、村一番の美男でしたから、それこそ理由が命でしたのよ。何せ彼に言い寄る他の女性の方が綺麗だったのですから。だから私は言葉と想いで彼を射止めなくては・・・とね」
「そうなのですか・・・。ははは・・・ケイタク殿みたいだ。彼は決して美男ではないけど、それでも王国一の美女から好かれているし、しかも接吻もしている」
「まぁ、そうなのですか?」
「はい・・・。だから尚更悪い気がするのです。彼を好く事が、あの方から幸せを奪うのではないかと・・・」

 俯き加減となって、アリッサは底の浅いコップの湖面を見詰めた。淡い情念と躊躇いがない交ぜとなった、憂いのある顔である。ソ=ギィはからかいたくなる気持ちを抑えて、同情気味に声を掛けた。

「確かに、既に誰かが好いている方が気になってしまうというのは、とても難しいですわね。でも、年長者の経験ではありますけど、そのような気持ちは胸に押し留めたり、或いは考えから逸らそうとしても駄目なのです。そうした所で気になってしまうものは気になってしまうし、いざとなったらそれ以外考えられなくなる。とても恐ろしい病ですわ」
「じ、じゃあどうすればいいのですか!?私は・・・私はどうしたら・・・」
「・・・私の夫の話に戻りますけどね。色々と好きになった理由を考えたりしたものです。そうやって思い出を振り返ったりしましたわ。『あ、薪割りを手伝ってもらったり、一緒に御飯を食べたりしたなぁ』と。そうやって告白の日まで理由を探していたのですけど、ついに答えを見つけましたわ」
「ど、どうなのですか?」
「・・・彼を好きになった理由なんて、無かったのです。彼と一緒に居るのが当たり前となっていて、一緒にいるだけで心が満たされるのです。ただあの人の傍に居るだけで、不思議と安心できる。人に恋したり、
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