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王道を走れば:幻想にて
第四章、その6の2:東のエルフ
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「・・・そうか。たった一月足らずで王女の心を掴み取り、往来で抱擁して、接吻すると!それが今に至る、という事か」
「は、はい・・・節操無くて、すいません・・・」

 慧卓の弱弱しい言葉に、アリッサはいやに腹が立って仕方が無かった。己の懊悩の中心にいるという事実を知ってか知らずか、隣にいる若人は気持ちを振り回してくるのである。そして少なからず、彼女は敬愛すべき王女に対して、理性とは程遠き疚しい思いを抱いてしまった。それは人に言わせれば、嫉妬という感情であると彼女はまだ言葉としては知らなかったが、その態度は如実にそれを反映していた。
 それは、ごろごろと、一際大きく雷がつんざめく時に起こる。

「・・・雷、近いですね」
「・・・・・・す、す・・・少し、そっちによるぞっ」
「えっ?」

 相手が一瞬呆気に取られるのを良い事に、アリッサは一気に身を寄せた。若干厚めの布団に出来た二つの膨らみ。その間に出来た隙間が、ほんの数センチの距離までに縮まった。必然的に慧卓は、一気に近寄った絶世の美顔と肉体に、思考を完全に静止させてしまう。丁度その時に轟いた雷鳴の閃光によって、アリッサの表情がつぶさに窺い知れた。
 暗闇の中でもよく分かる程の、紅潮した頬。俄かに潤いを帯びて、翠の瞳。機嫌を損ねたように顰められた茶色の愁眉と、尖った口元。鼻先を掠める麗しき香りは、その美しき肩まで伸びた髪によるものだといえた。そして驚いた事に、慧卓の右手はアリッサによって抱かれている。薄絹のきめ細かな感触の直ぐ奥にある、女性的な肌の柔らかみと温かみ。鍛え上げられた引き締まった騎士の肉体。そして掌が触れてしまった、腰部の妖美なライン。触れられている事を感じているのに、アリッサはそれを引き離そうとしなかった。
 慧卓は自分の肢体の真ん中、理性の及ばぬきかん棒に血が通い始めて硬直していくのを感じつつ言う。

「ど、どうしましたっ?もしかして、雷が怖いとかーーー」
「ち、違う!ただ・・・何となく・・・そう!ちょっと肌寒く感じたから、人肌に擦り寄っただけだっ!!」
「・・・そ、その言葉は・・・男にとっては反則だって自覚、あります?」
「は?一体どういう・・・っっ!!!」

 アリッサが身動ぎして、ぴととその部分に肘に触れてしまい、そして慧卓と見つめあった。肘先で触れたのは、硬直して膨らんでしまった慧卓自身。見詰めてしまったのは、欲望に耐えるかのように堪えられた、愁いすら感じられる表情。アリッサは顔を一気に、林檎のように真っ赤にさせて目を見開いた。そして慧卓の腕を放して背を向ける。
 慧卓は気まずき思いをしながら問う。

「あ、アリッサさん?」
「黙れぇ!もう寝るっ!!!」
「も、もう寝るって・・・。そんな子供みたいな態度取らなくてもーーー」
「煩いっ!」

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