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王道を走れば:幻想にて
第四章、その6の2:東のエルフ
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エルフの問題に口を挟むな』で終わりなんですけどね」
「まぁ、その通りだろうな」

 肩を竦めて、脳内で口舌によって育ってきたという老人に呆れてみせた。道はやがて背の高い針葉樹の林を掠めるように続いていく。緩やかな稜線の上に林はあるのだろう、振り仰げば、枝葉の厚みが上へ、上へと積み重なっているようであり、空の暗さと相俟って薄気味悪い雰囲気が漂っていた。
 ぶるる、とベルが鼻を鳴らした。寒さでも感じたのだろうか。頸をぽんぽんと軽く叩きながら前を向いていると、剣呑さを秘めた鋭い瞳でアリッサは林を見詰めていた。

「どうしたました?」
「・・・どうにも見られている感じがする。感じが悪いな」
「そう、ですか?余り感じないんですけど」
「林の奥からだ。私には、ひしひしと感じるぞ」
「・・・よく分かりません、死体を見たから神経が過敏になっているんですよ、きっと」
「緊張感を持て。あれが野晒しにされているという事は、此処が非戦闘地域とはいえないという事だ。少しは気にしろ」
「はぁ・・・やってみます」

 慧卓は己の上司に言われた通り、意識を集中させて林を見遣った。叢がほとんど見当たらないお陰か遠くの方まで木々の間から見えているが、アリッサが言う見られている感じの根源というのは、慧卓の視点からは感じられぬものであった。

「・・・どうだ、分かったか?」
「え?・・・い、いや。あんまし」
「そうか。だが成長著しいケイタク殿の事だ。剣の方で鍛錬を積めば、おそらくこちらのほうも出来るだろう。」
「なんでもかんでも自分基準で言わないで下いよ。俺だって出来ない事とかありますよ!たとえば・・・その、殺気を感じ取るとか」
「う、うむ。考えてみれば貴方もこの世界に来る前は一介の学徒であったのだな。というより、そもそも学徒は最前線に立たないものか。すまん、認識不足であった」
「いえ、別に謝るような問題でも無いんですけど・・・。そういえばパウリナさん、今気付いたんですけど髪にーーー」

 その続きを言おうとした瞬間、背筋を凍りつかせるような剣呑な視線を感じ、慧卓は思わず竦むように身を屈めた。ほんの僅かそれに遅れて、ひうと、聴きなれた剣呑なる空を切る高調子が聞こえ、慧卓の頭の上を鋭きものが通過していった。視線をちらりと見遣れば、乾いた地面に一矢の木の矢が突き刺さっているのが見えた。

「待ち伏せか!走れっ!!」
「くそ!なんなんだよっ」

 慧卓はベルの腹を強く蹴りつけて、夢中で手綱を打つ。嘶きも漏らさずベルはすぐさま疾駆していき、アリッサと同様に、後を追って走ってくる小さな矢雨から難を逃れた。慧卓は振り向き様に林の様子を窺う。つい先程まで見ていた木陰の間から、幾人もの者達が弓を持って此方を見据えていた。木陰に上手く身を潜めていたのであろう。
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