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くらいくらい電子の森に・・・
第十章 (2)
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して、思いつめた娘が、一番弱い姶良に怒りをぶつけた。あんたのどこが悪いの、何を考えようがあるの!姶良は被害者で、あの娘は加害者だわ!」
わ、まずい、なんか結構本気で怒り始めた。…これが怖かったんだ。柚木はいつも公正で、明快で、竹を割ったように真っ直ぐに物事を断じる。…その事件の中で複雑にもつれて絡み合った要素とか、そういうものをあまり重要視しないんだ。

だから僕たちは、いつもどこかでぶつかり合う。

そして、僕はいつも『君には分からない』という迷宮に逃げ込んで、柚木を煙に巻いてきた。迷宮をハンマーで破壊しながら追ううちに、打ち疲れてハンマーを下ろし、回れ右するのを待つために。
なんでこんな気分になったのか…さっきのキスが影響してるのかもしれないけど、僕はそのとき、思った。

もう逃げない。柚木が僕を追いかけるにしても、追いつめるにしても。

「…父さんは僕に、『流迦ちゃんの気持ちを考えろ』と警告した。流迦ちゃんも、本当の気持ちをほのめかしていて…僕は、それに気がついてた。でも僕は『流迦ちゃんが好き』っていう感情を免罪符に、全部見ないふりをしてたんだ」
「だけど、姶良は子供で…」
「子供は、全部無邪気で天真爛漫だと思っているのか」
「………」
「僕は昔から、人よりも勘が鋭い子供だった。母さんが財布を置き忘れた位置も、友達が覚えてきた手品のタネも、妹が好きな子も、いつも誰よりも先に気がついた。ついでに言おうか。叔父さんが、なんで選挙のたびに家に来るのかも、薄々感づいてたよ」
「……姶良」
「でも僕は、流迦ちゃんが好きな人に気付けなかった。…おかしいだろ、妹の好きな子なんてどうでもいいものは嗅ぎつけるのに、自分が好きな人の好きな人がわからないなんて。…僕は無意識に都合のいい時だけ無邪気な振りをして、父さんの忠告を無視して、叔父さんの思惑まで利用して、流迦ちゃんを自分の物にしようとしたんだ」
ここまで一息に言い切って、柚木と目を合わせた。
「僕の勘を狂わせたのは、全部『感情』だ。感情に呑まれて、自分が今どれだけ卑怯な手段で流迦ちゃんを苦しめているのかにすら気がつかなかった。…それは流迦ちゃんも同じだ。彼女は誰かの感情に振り回されるあまり、問題をどんどん複雑にした」
僕は金網から体を起こして、蒼く霞む山脈を見渡した。
「流迦ちゃんは、周りの感情に応えようとし過ぎた。…叔父さんを怒らせたくなかったし、僕も泣かせたくなかった。宴会の席で囃し立てる大人たちに不快な思いをさせるのも嫌だった。…ないがしろにしてたのは、自分の感情だけ。自分がどれだけ追い詰められているのか、僕の首を絞めるまで気付けなかったんだ」

「だから姶良は、感情を信じないんだ」

僕が言おうとした台詞を引き取って、柚木も金網から背中を離した。
「でもね姶良
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