第十章 (2)
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んだのでもない。ふっ…と表情が消えたんだ。思い込みの真っ只中にいた僕は、そんな彼女の変化を重要視しなかった。表情を消した彼女を引いて、あぜ道の端にしげる葦を引き抜いて笛にしたりしながら、蓮華の川原まで歩いた。
彼女と並んで歩くのは、これが最後になった。
流迦ちゃんに花の冠を頼んで、僕は蓮華とシロツメクサの花で指輪を作る。…同級生がこの川原を通りかかったら、上着で顔を隠した。流迦ちゃんは、黙々と花の冠を作る。指輪作るのが終わって、流迦ちゃんの手元を覗き込む。彼女は一旦手をとめると、口元に微笑を浮かべた。
「…ん?」
「…んーん」
一見笑っているようにみえたけど、どこか虚ろだった。笑うためだけに笑っている、そんな顔。…そんな風に気がついたのは、ずっと後になってからだ。この時は、叔父さんに怒られたことをまだ引きずってるんだ、くらいにしか思わなかった。
紅い蓮華の指輪を流迦ちゃんの薬指に飾り、シロツメクサの指輪を、僕の薬指につけた。白くて冷たい流迦ちゃんの手を取ったとき、背中がぞくりとした。
…数年前、同級生が上水道にはまって死んだ。自分が知っている子が死んでしまって、もう二度と逢えないなんて…。哀しいというより、怖かったことを覚えている。『死』が、こんなにも無差別に牙を剥くってことを、鼻先に突きつけられた気がした。男子と女子が1列ずつ、出席番号順に並んで献花した。僕は『姶良』だから、先生の次。先生がやったとおり、煙が出る箱からお香をつまみあげ、額の位置まで持ち上げて煙の上に落とす。そして死んだ彼(名前は忘れた)のお母さんから、白い菊を受け取った。白い布で覆われた棺を覗き込んで、先生は静々と涙をこぼしていた。少し長いお別れの後、僕も献花のために棺を覗き込んだ…
…冷たい指を紅い蓮華に通すその行為は、あの死者への献花を思い出させた。その感覚とともに、ちらりと妙な罪悪感が胸をよぎった。…僕はずっと、心の奥底では彼女の本当の気持ちに気がついていたんだと思う。つまり僕も、叔父と同罪だった。
その日、流迦ちゃんが話してくれた不思議な話は、どれもこれも死の匂いをさせていた。偶然が重なって。エゴが絡み合って。大事なものと引き換えに。…理由は様々だけど、必ず誰かが悲しい死に方をする。そんな話ばかりを僕に聞かせた。
やがて日が傾き、一番星が出始める時間になった。僕はいち早く蓮華の原に寝転がり、眼を皿のようにして空を見渡した。
「あっ!一番星、見ゆっとよ!」
「……うん」
いつもなら、一番星の頃になると帰り支度を始める流迦ちゃんが、蓮華の上に身を横たえたまま起き上がらない。夕日の残照もいつしか消えて、青白い夜の気配が流迦ちゃんの白い肌に、薄青い陰を落とした。
彼女はまるで夜に呑まれてしまいたいみたいに、そっと目を閉じた。細い指を、胸の
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