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くらいくらい電子の森に・・・
第十章 (1)
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まじゃ、僕は……
「……深淵を覗き込むとき、深淵もこちらを覗いているんだって……くくくっくく……」
「ぁぁああああぁぁああぁあああああ!!!」
自分でも信じられないような悲鳴が喉から迸った。
閉じた瞼の裏で、赤黒い闇が無数の渦を巻いて僕の意識を飲み込んだ。…小さい頃、夢の中で垣間見た、マンホールの裏側で蠕動する赤黒い肉の渦を思い出した。僕はこの渦の中に沈み込む。そして少しずつ溶かされて、あとかたもなく消えていく…そんな切ない夢だった。飲み込まれていくのに、胸を満たすのは焦りや恐怖ではなく、ただ、切なさ。
「私の『目』を覗き込むには、『準備』が足りなかった…もう、眠りなさい、ずっと、永遠に……」

……そうだ、もう眠ろう。ずっと、永遠に……

「その瞳…昏くて深い瞳。気に入ったわ。欲しいなって、ずっと思ってたの…」

……二度と目覚めない僕にはもう、必要ない……


「姶良をいじめるな!!」


――清冽な一陣の風が、赤黒い渦を吹き飛ばした。目を開けた瞬間、パァン!と快活な殴打音が廊下に鳴り響いた。その先には
「姶良、立ちなさい!!」
柚木の凛とした横顔が、視界に飛び込んできた。その向こうには、舞い散る漆黒の髪。
――流迦が、頬を押さえて呆然と立っていた。
「考えるな、振り返るな!…姶良の悪い癖だよ」
そして手を筒状にして口元にあてると、ありったけの大声で叫んだ。
「看護士さ―――ん!隔離病棟の患者さんが出てきてます!!」
しばらく呆然としていた流迦の目に、静けさが戻ってきた。流迦は、細い首を傾げて柚木の顔を下から覗き込み、薄く微笑んだ。
「野蛮なくらい真っ直ぐで、強硬な意志力ね…」
柚木は流迦の瞳を、真っ直ぐに睨み返していた。…いけない、その目を覗いたら…。
「…嫌いだわ、あなた」
「私だって、あんたなんか大嫌い!」
流迦は長いまつげを伏せてきびすを返した。
「今は、見逃してあげる。…ビアンキのマスター、姶良、壱樹」
「…!!」
何で、僕を知っている…!?
「紺野に出来ることは、私にも出来る。…痕跡も気配も、あとかたもなく…」
桜色の唇が、きれいな弧を描いて引き締まった。
「…かわいい子ね、ビアンキちゃん…ふふ…」
「ビアンキに、何をした…!?」
「私は、見てただけ…ただ、見てただけよ」
さも可笑しそうに、くっくっと肩を震わせて笑った。
「…何が可笑しいんですか」

「紺野も、罪なことをする。…何も、知らないのね。自分が、どんな厄介な十字架を背負ってしまったのか…」

くらり、と頭の芯がふらついた。僕の肩をきつく握る柚木の気配で、ふと我に返った。
「いたぞ!」
「おい、こっちだ!!」
黒い色眼鏡をかけた看護士が4人走ってきて、流迦を取り巻いた。流迦の微笑はなりをひそめ
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