第九章
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で呼びかけられて、ふっと我に返った。ちょっとぼやけた液晶の中で、ビアンキが頬を膨らませている。
「あ…な、なんだいビアンキ」
「ハルにそんな顔するご主人さま、嫌いですから!もう、ハル見るの禁止!」
「そ、そんな…」
僕は他人の液晶に見惚れるだけで、セキュリティソフトに警告を受けるのか…
「おーおー、犬も食わないねー」
「浮気しちゃだめだよ!」
紺野さんと柚木が面白がってちゃかし始めた。…冗談じゃない、これ以上ややこしくしないでくれ!
「と、とりあえず優先順位その1はひとまず凍結だよね!僕、ちょっとトイレ行ってくる」
「おう、廊下出て右、左、右、左だ」
「あっ!もう、どこに行くんですかっ!」
ビアンキの声に追い立てられるように、白い部屋を飛び出した。
ご主人さまがあたふた去っていった後姿をみて、紺野さんがゲラゲラ笑ってる。
「紺野さん、笑いすぎですからね!」
「あっはっは…怒られた。…すごいなお前」
紺野さんが、笑い顔をひゅっと収めてカメラを覗き込んできた。
「何が凄いんですの?」
「笑ったり、怒ったりできることだよ」
なんか馬鹿にされた!って思って、また怒ろうとしたけど、やめた。『そういう雰囲気じゃない』って思ったから。
「…紺野さんは、出来ないんですの?」
「どうかな…子供の頃ほどは、出来なくなった」
そう言って、少し寂しそうに笑った。
「変なの。…笑うのも怒るのも、とっても簡単なことなのに」
変なの、って言ってみたけど、そういえばご主人さまもそうかも。私以外の誰かがいるときは、私の好きなあの笑顔が見れないもの。人間は、そういうものなのかな。
「柚木も、そうですの?」
「私?考えたことないわ。笑いたければ笑うし、怒りたければ怒る」
「…うん、君はもうそれでいいよ…一生、そのままでいてくれ」
「なにそれ、また馬鹿にしてんの」
柚木が紺野さんの頭を掴んで、わしわしと振った。紺野さんは『ひー』とか『やめてー』とかいいながら、ちょっと嬉しそう。
――いいな。
柚木の手のひらは、たぶん柔らかくて、いいにおいがするんだろうな…。きっと紺野さんも、それが嬉しくて、ホントは触って欲しくて、意地悪を言ったりするんだ。
「紺野さん」「お、何だ」
「紺野さんは、柚木を抱きしめたいって思いますか」
紺野さんの頭の動きが止まった。柚木が、慌てたように手を離す。
「なっ…なに言い出すの、この子」
何か考え込むように、あごに手を当てていた紺野さんが、妙に柔らかい笑顔を湛えてカメラを覗き込んだ。
「ああ、俺はいつだって抱きしめたい気分でいっぱいだ。しかしなビアンキちゃん、人間の世界ではな、女性にそういう行為を働くことをセクシャルハラスメントなどと呼んで警察が強力に取り締まっているんだ。…人
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