弐ノ巻
霊力
5
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
?何か起きてい」
「火事だーーーーーーーっ!」
あたしの声は大きく割り込んできた声に掻き消された。
火事!?あたしは慌てて腰を浮かせた。
咄嗟に兄上を見て、違和感に首を傾げた。違和感の答えはすぐに出た。あたしを見ている、兄上の目の色が、綺麗な瑠璃色に染まっていたのだ。
一瞬呆気にとられたけど、今はそんなことどうでもいいと気を取り直した。逃げるのが先よ!
「兄上!はやく逃げなきゃ!」
あたしは兄上の手を引っ張った。けれど、兄上は静かにあたしを見詰めるだけで動こうとしない。
「兄上!あの声が聞こえなかったの!?火事なのよ!規模は分からないけど、逃げなきゃ!」
そんなことを言っているうちに、あたしははっとした。開いている障子の向こう、庭を挟んで対の部屋が、燃えているのだった。
黒く煤を出して、炎は静かに燃えていた。風向きなのか、煙は反対側に流れているようでこの部屋からは煌々と燃える炎と、黒くけぶる煙を見るのみだったがいつそれが変わるとも限らない。
「兄上!」
あたしは焦れて叫んだ。
すると、ふいに兄上は訳のわからないことを言いだした。
「真秀、後世でも僕たちの宿業は変わらないのか」
その蒼い瞳ははっきりとあたしを映していた。あたしは混乱した。兄上は何を…視ているの?
「あたし、真秀じゃない…」
短い沈黙の後、あたしがようやくそれだけ言うと、兄上は微笑んだ。
「あに、うえ…?」
なんだか、おかしい。兄上だけど、なんか違う。
「魂の軛を弾くよ。今の僕の霊力では、ほんの一刻しか外せないけれど…思い出して。全て」
兄上はあたしの頬に手をあてた。その瑠璃の瞳が淡く鈍く燐光を放つ。
閃光のように悟った。兄上は霊力を顕わそうとしている!
あたしは目を瞑って顔を背けた。
「やめてっ!霊力を使わないでっ!」
咄嗟に感じたのは恐怖だった。兄上に、これ以上傷ついてほしくないのに!
ぐらりと地面が揺れる。自分がどこに立っているのかもわからない。いや、立っているのか、座っているのか、それすら曖昧としてわからない。
体が熱い。胸のあたりが燃えるように熱い。頭もがんがんと打ち付けられるように痛みだした。
そのまま、なにも、わからなく、なって…くる…。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ