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戦国御伽草子
弐ノ巻
霊力

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?何か起きてい」



「火事だーーーーーーーっ!」



あたしの声は大きく割り込んできた声に掻き消された。



火事!?あたしは慌てて腰を浮かせた。



咄嗟に兄上を見て、違和感に首を傾げた。違和感の答えはすぐに出た。あたしを見ている、兄上の目の色が、綺麗な瑠璃色に染まっていたのだ。



一瞬呆気にとられたけど、今はそんなことどうでもいいと気を取り直した。逃げるのが先よ!



「兄上!はやく逃げなきゃ!」



あたしは兄上の手を引っ張った。けれど、兄上は静かにあたしを見詰めるだけで動こうとしない。



「兄上!あの声が聞こえなかったの!?火事なのよ!規模は分からないけど、逃げなきゃ!」



そんなことを言っているうちに、あたしははっとした。開いている障子の向こう、庭を挟んで対の部屋が、燃えているのだった。



黒く(すす)を出して、炎は静かに燃えていた。風向きなのか、煙は反対側に流れているようでこの部屋からは煌々と燃える炎と、黒くけぶる煙を見るのみだったがいつそれが変わるとも限らない。



「兄上!」



あたしは焦れて叫んだ。



すると、ふいに兄上は訳のわからないことを言いだした。



真秀(まほ)後世(のちよ)でも僕たちの宿業(しゅくごう)は変わらないのか」



その蒼い瞳ははっきりとあたしを映していた。あたしは混乱した。兄上は何を…視ているの?



「あたし、真秀じゃない…」



短い沈黙の後、あたしがようやくそれだけ言うと、兄上は微笑んだ。



「あに、うえ…?」



なんだか、おかしい。兄上だけど、なんか違う。



「魂の(くびき)を弾くよ。今の僕の霊力では、ほんの一刻(いっとき)しか外せないけれど…思い出して。全て」



兄上はあたしの頬に手をあてた。その瑠璃の瞳が淡く鈍く燐光を放つ。



閃光のように悟った。兄上は霊力を(あら)わそうとしている!



あたしは目を(つむ)って顔を背けた。



「やめてっ!霊力を使わないでっ!」



咄嗟に感じたのは恐怖だった。兄上に、これ以上傷ついてほしくないのに!



ぐらりと地面が揺れる。自分がどこに立っているのかもわからない。いや、立っているのか、座っているのか、それすら曖昧としてわからない。



体が熱い。胸のあたりが燃えるように熱い。頭もがんがんと打ち付けられるように痛みだした。



そのまま、なにも、わからなく、なって…くる…。







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