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戦国御伽草子
弐ノ巻
霊力

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倭は国の真秀ろばただなづく青垣山籠れる倭し麗し











 ふと胸元で揺れる瑠璃の勾玉(まがたま)に気がついた。これと対になる日の勾玉は、真澄(ますみ)がしていた。黄泉に旅立つ身の飾りに、御影(みかげ)の亡骸から貰ったのだろうか。
 真秀(まほ)は声をあげて笑いそうになるのを辛うじて堪えた。
 小由流(さゆる)が教えてくれたとおりだった。この世では真向かうことを禁じられた、結ばれない恋人同士が持つ玉だと、小由流は、あの大津の墳墓の中で言っていたのだ。
 真秀は勾玉を握りしめ、力を入れて引っ張った。紐はたやすく首の後ろで引きちぎれた。
 燃え盛る炎の海目掛けて、真秀はその勾玉を放り投げた。
 確かに、小由流の言ったとおりだった。同母(いろ)の兄と妹として生まれた限り、真向かうことはありえなかった。だとしたら、いつか、あたしたちはこの島国の違う部族(うから)に別々に生まれて育ち、こんな悲しい思い出など忘れて邂逅(めぐりあ)い、背負うべき一族もなく、国もなく、唯愛しみ合う心だけを支えに、幸せになれるだろうか。
 真秀の末裔(すえ)と邂逅うその時まで、くり返しくり返し、黄泉返(よみがえ)ると真澄は言った。
 だとしたら、あたしもその時まで黄泉返り、佐保(さほ)の血の一滴が潰えるその時まで黄泉返り、必ず真澄の末裔に邂逅う。
 あたしたちは次の世で、それが叶わないなら、その次の世で邂逅い、この悲しい悪夢を断ってみせる。










 あたしは馬によじ登って、吉野君(よしののきみ)を見降ろした。
 血の気の失せた顔で、あたしを見上げている吉野君は、今まで見たどの吉野君より綺麗だった。
「今度会うときは、吉野よ。その時はあたし、最高の十二単姿で、すっかりお化粧して、とびきりの顔をしてるわ。こんな破れ坊主みたいんじゃなくて。いつもはあたし、少しはましなのよ」
「そのままでも充分、可愛いですよ」
 吉野君は言いようのない深い眼差しで、心にしみ通るような笑顔で言った。
「あなたはいつも、(ただ)、そこにいるだけで可愛いのです」
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