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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十一話 わりと忙しい使用人達の一日
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古がなければあの夜襲で死んでいたかもしれないとも思っているよ。それに、体を動かすと気も鬱がないし」
 苦笑を浮かべながら本棟に戻る路を並んで歩く。
「――流石に年を食っただけはあるよ、本当に。」
欠伸を噛み殺しながら呟く姿はどことなく疲労しているようにみえた。



同日 午前第十一刻 馬堂家上屋敷 離れ倉庫
馬堂家使用人 石光元一


 新人使用人である石光元一は溜息をついた。
  ――何故こうなったのだろう。
自分は〈皇国〉最大の諜報機関である皇室魔導院に所属しているである。不破にある魔導院の施設で育てられ、訓練を受け、三等魔導官となった――筈なのにこうして駒城家陪臣の家で倉庫の整理をやらされている。
 上の方で何やら取り決めがあったらしく定時報告の際に現状維持方針を伝えられたからだ。
その現状とは使用人として働きながら魔導院と馬堂豊長が書簡交わす仲介をという明らかに使用人としての生活におまけがついた程度のものであった。少なくとも男手としては使用人仲間には喜ばれている事がなお複雑な気分に拍車をかける。

――御陰で二十にもならないのに肩と腰が夭折しそうだ、療院に行くとしたら経費で落とせないだろうか。
 パッキパキの肩を回しながらまた溜息が出る。
「石光クン、大殿様がお呼びだよ」
 柚木が棚の整理をしている途中の石光に呼び付ける。

「僕を?」

「若殿様が蓬羽に行くらしいから色々と運ばされるんじゃない? それが専門でしょ?」
 石光の事情を知らぬ柚木は後輩の顔を見てけらけらと明るく笑う。
「冗談よ、でも助かっているのは事実だけれどね。」
 笑いながら後はやっておくから、と背中を押された。
 ――これはこれで悪くないな、自然と頬が緩んだ。


同日 午前第十一刻半 馬堂家上屋敷
馬堂家使用人 柚木薫

「はぁ・・・・・・・」
部屋を出ていった石光青年の背を見送り、息を吐いた。
「何もかも物騒になっていく。ホント、この屋敷まで嫌な空気になったものねぇ」
 一使用人にだって分かる程にこの屋敷の主達は張り詰めている。
 豊久は二日前の夜中に帰ってきてから豊守と一緒に豊長の居る書斎に籠もり、信頼のおける生え抜きの使用人以外の何者も近寄らせずに殆ど丸一日出て来なかった。
 その翌日、年長者二人はそれぞれ休んでいない休日を気にせず仕事に戻り。
休暇中である豊久は六刻で十杯の黒茶を消費する荒技を披露しながら丸一日、沈思黙考を続けている――と云えば聞こえが良いのだが、必要ない書付を燃やして灰を出すし、(細巻を控えている所為なのか)黒茶を浴びるように飲み、結局は柚木達をほぼ丸一日部屋に出入りさせていた。
「柚木さんいる?」
「あ、敦っちゃんどうしたの?」

「豊久様に頼まれていた本
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