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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十一話 わりと忙しい使用人達の一日
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皇紀五百六十八年 五月十三日 午前六刻半
馬堂家上屋敷内 道場棟
馬堂家嫡男 馬堂豊久


「――――チッ」
 後方に飛びずさり、間合いをとる。戦況を分析する――までもない。
 擬剣を握りなおす手はいまだに痺れがとれず、押されているのは豊久自身が一番よくわかっていた。
 ――不味いな、このままだと十中八九負ける。それならばいっその事――
無駄についた度胸に物を言わせ逆転を狙い、一気に接近する

 轟!!
 だが杖が豊久を空間ごと薙ぎ倒そうと烈風の如く空気を切り裂きながら襲いかかる。
予想通りの軌道を描くそれを身を屈め、避けながら相手の足に擬剣を叩きつける、が。

「!?」
 巧みな足裁きで豊長はそれを躱し、半身に回り込み――

「甘い!!」
「ッ〜!」
 背中を叩かれ。
「そらっ!」
「!!」
 足を薙がれ、視界の一面に畳が広がり――
「ほれっ!」
「むぎゃ!!」
 一発もらって藺草の臭いを強制的に嗅ぐ羽目になった。
「そこまで!勝負あり!豊長様の勝利です。」
 真っ暗な視界の外で賞賛と驚きのどよめきが響く。
――涙が流れるのは鼻を打った所為だ。自分を心配する声は全くないからではない――ないのだ。



同日 午前八刻 馬堂家上屋敷内 道場棟
馬堂家 警護班 班長 山崎寅助


「はぁ‥‥‥結局、俺は御祖父様の噛ませ犬じゃないか
前線でさんざん大立ち回りして戻ってきた孫を相手にこれだもんなぁ」
 訓練が終わった後、毎度お決まりの愚痴を豊久はぶつぶつと垂れ流している。
 警護班を交えた訓練の中で行われた馬堂家の退役将軍と現役軍人の一騎打ちは大いに場を沸かせたが、若さよりも絶え間ない研鑽を積んでいる老練さが勝利を勝ち取り、当主権限で豊久は不足している研鑽を強引に積まされる事になった。

「そもそも剣で杖を相手にしろって時点で不利過ぎるよ。相手が御祖父様である時点で剣の勝負で勝率三割なのにさ」
 背中をさすりながらぶつぶつと文句を言っている若様に山崎は思わず笑みをこぼした。
 ――私は大殿様が憲兵将校だった頃からの付き合いだ。あの御方の気骨は分かっている。あの御方なりに孫の心配をしているのだ。
「白兵をやったと聞いて大殿様なりに心配しているのですよ」
 豊長は剣術・体術に加え、憲兵の捕縛術の一環として、杖術を修めている。そして現役を退いた現在では、それを趣味として数日に一度は警護班を交えて実戦さながらの訓練を行い、年齢を感じさせない体力と達人と呼んで差支えのない腕前を維持している。
豊久も幼年学校に入る前から幾度も祖父から強制的に指導を受けており、鋭剣の腕も悪くはない――比較対象が強すぎるだけだ。

「あぁ、それは分かる。実際、負傷したのは事実だが、御祖父様の稽
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