第六章 贖罪の炎赤石
第五話 天駆ける赤き猟犬
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アルビオンがハルケギニア大陸へと最も近づくウェンの月の第一週。マンの曜日、トリスタニアとゲルマニアの連合軍、総勢六万を乗せた大小合わせて五百の大艦隊が晴れ渡った青空に次々に浮かび上がっていく。
それを見つめる数多くの目の中に、空と対をなすような青い瞳があった。
青い瞳の持ち主。アンリエッタは手を翳し、日の光を防ぎながら小さくなっていく艦隊を追いかける。
「今でも必要な戦争だと思っておられますか」
空を見上げるアンリエッタの横にやせ細った男が立っていた。やせ細った男。枢機卿がアンリエッタと同じように消えゆく艦隊を追いかけている。
「……ええ」
「アルビオンを封鎖するという手もありましたが……何故、そちらを選ばなかったのですか?」
「……間違いだと……そう、あなたは言うのですか?」
「間違いかどうかは、終わった後でなければ分かりません」
二人は視線を交わすことなく、互いに呟くように小さな声で会話を続ける。
既にあれだけいた艦隊の姿は空の何処にもいない。
それでも二人は空を見上げ続けていた。
「……必要……なのです……わたしが……前に進むために……」
「陛下?」
「……何でも……ありません」
口の中で呟いた言葉は、あまりにも小さく。隣に立つ枢機卿の耳にも届かなかった。
吐息とともに吐き出された言葉は、外に出ることなく身体の中に落ちていく。
結局アンリエッタは、最後まで隣りに立つ枢機卿に顔を向けることなく、世界樹桟橋に背を向け歩き出した。
『進むために必要』……そう、必要なのだ。
自分がこれから歩む道。
王という、国を背負う道を歩むために……。
戻ることも、留まることも出来ない……進むしかない。
そして、進むには必要なのだ。
この……戦争が……。
この時のわたくしは、本当にそれが必要だと信じ込んでいました。
それがどんな結果になるとも知らずに。
ただ、自分の心の中で渦巻く、どろりとした黒い何かを消し去るのに必死で。
……何も見えていなかった。
……理解していなかった。
……わたくしを支えてくれている人のことを……。
……戦争がどういったものなのかを……。
……後悔した時には……もう……余りにも遅すぎた……。
「出発かい?」
研究室の中に収められたゼロ戦の傍に立つ士郎に、コルベールは声を掛けた。
コルベールの視線の先には、飛行機に乗る準備が終わった士郎の姿があった。士郎の首には、シエスタの曽祖父の形見のゴーグルが、腰にはデルフリンガーが下げられている。肩には、非常時のための様々なものが入った、古いズタ袋が掛けられていた。
「ええ。ああ
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