GGO編
百十二話 待つ者
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で考えた所で、不意に、膝の上できつく握った手を、暖かい別の掌が包んだ。リズとは反対側に座る少女、サチだった。
「アスナ。リズの繰り返しになっちゃうけど、落ち着いて?大丈夫だよ。キリトとリョウなら、きっと大丈夫」
「サチ……」
微笑みながらそう言う彼女に、アスナは少しばかり戸惑う。その顔がいつもと変わらず穏やかで、不安も焦りも見えなかったからだ。一瞬だけ、アスナは「寧ろ貴女はどうしてそんなにも落ち着いて居られるの?」サチに問いたくなる。しかしそこまで考えて、アスナは自分がなんて馬鹿なことを考えているのかと驚いた。
これまでの彼女との付き合いを鑑みれば自ずと分かるはずだ。この少女が、自らの思い人が過去の殺人者が居る戦場に居ると分かっていて、ただ不安なくあれる筈はない。ならばどうして、こんなにも落ち着いて居られるのか。それを考えて……アスナは唐突に気付いた。
“大丈夫”
サチが今、アスナに言い聞かせるように言った言葉。きっとそれは、自分自身へ向けた言葉でもあったのだろう。つまりは、サチはひたすらに信じているのだ。
リョウならば大丈夫だ。彼ならば必ず無事に帰ってくる。と。比べて……自分はどうなのだろう?
「……凄いね。サチは」
「え?」
少しだけ困ったように言ったアスナに、サチはキョトン、とした顔をする。
「何も無くても、唯ずっと信じていられるって、とっても凄い事だよ……私は、キリト君ならきっと大丈夫って思ってても、それでも不安になって、今みたいにそわそわしてばっかり……私、キリト君の事、信じ切れてないのかな……」
言いながら俯いた彼女に、サチは一瞬驚いたように目を見開いた。アスナの口から、それもキリトの事に関して、そんな少しでも自分の事を疑うような発言が出てくるとは思わなかったのだ。だが、彼女はふっと頬を緩めると、再び優しく微笑んだ。
「私だって、全然不安じゃない訳じゃないよ」
「え……」
「私はアスナみたいに強くなくて、SAOの時からリョウの事を待つばっかりだったから、ちょっと慣れてるだけだよ。不安でも、それを我慢する方法、知ってるから」
「どうするの……?」
呟くようにアスナが聞いた。サチの笑顔が、照れくさそうな、はにかむような物に変わる。
「信じてあげるだけだよ」
「…………」
「大丈夫、大丈夫って、とにかく相手の事を信じてあげるの。小さい子みたいだけど……いつもそうするしか無くて、そうしてたらいつの間にか、信じてればきっと帰って来てくれるって、信じられるようになっちゃった」
えへへ、と笑うサチに少しだけ呆気に取られたアスナだったが、すぐに正気に戻り、同時に改めて感嘆した。
それに、一体どれだけの心の強さが必要なのだろう。
思い人が、何時死ぬともしれぬ、帰って来ぬとも知れぬそんな状況で
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