GGO編
百十二話 待つ者
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アスナは、明らかに切迫し、落ち着きを失った様子で、しかし育ちの良さ故か、けっして貧乏ゆすりなどはしたりせずに、ソファに座っていた。とは言え、その雰囲気で十分に彼女が焦っているのは分かる。リズが見かねたように声を掛けた。
「アスナ、落ち着きなよ……って言っても無駄だよね」
「うん……ごめん。でも、なんか悪い予感がして……キリト君達が《ラフィン・コフィン》の事、言わずにコンバートしたのは、きっと何か、大変なことが起きてるからじゃないかって思うの……因縁とかだけじゃなくて、現実世界にも影響出るような……そんな・・・・・」
言いながら、アスナは唇を噛むと、再び俯いた。
「考え過ぎ……っては、流石にあたしにも言えないかな……さっきのあれ、見ちゃったし……」
リズもそれっきり黙り込み、手に持ったグラスに視線を移す。あれから数分、此処に居る全員が、アスナが呼びだした「ある程度以上事情を知る筈の人物」の登場を今か今かと待っていた
《ラフィン・コフィン》
あの城……アインクラッドに居た二年間の中で、アスナは幾つもの大規模な戦闘を経験してきた。フロアボスを代表とする、ボス討伐戦。こうフィールドその物が一時的に多量のモンスターの巣状態となっており、そこを突破するエリア制圧戦。そして彼女が体験した中で、最も最悪な戦いとして記憶の中に染みつくのが、攻略組合同部隊による、「ラフィン・コフィン討伐戦」だ。あの戦闘はSAOの記録上唯一、PvPの戦闘で二十人を超える死者が出た例である。
あの戦いの記憶の中で、詳細な記憶は、アスナの中に殆ど残っていない。時が過ぎたせいもあるだろうが、何よりアスナ自身が忘れたかったからでもあるだろう。
実際、この世界に戻って来てからと言う物、一度としてアスナやキリトの話す話題に、あの時の事が上がることは無かった。ただそれでも、アスナが今でも自らへの戒めの意味を込めて、はっきりと思いだせる事もある。
不意打ちと、殺人への忌避感により崩壊しかけた攻略組の戦線の中で、自らをかばって殺人の罪を背負った黒衣の少年と……唯一、殺人者の群れの中へと飛び込み、幾つもの命を刈り取って見せた、今は嘘となってしまった約束の、自分の甘さと弱さの犠牲者となった浴衣姿の青年。
彼に言えばしかられるのだろうが、アスナは今もあの時の自分の安易さを悔み続けていた。無論、それに引きづられて必要以上に暗くなったりはしていない。以前彼にも言われたことだ。責任を反省し次に生かすのは良いことだとしても、それによって必要以上の暗さに陥ってしまうのは無駄だし、周りにも迷惑だ。
ただ同時に、それは反省せず、考えもしないことは唯の思考停止であると言う事も意味する。だからこそ、殺人者たちの群れへと飛び込んで行くあの後ろ姿を、アスナは忘れたことは無かった。
と、そこま
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