暁 〜小説投稿サイト〜

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はよくわからないが、とりあえず僕は頷いた。
「今は何年だ」
「え、っと、2012年、でした。確か」
 曖昧なのは僕が大半の日本人と同じように、日常的に過ごしている年を意識していないからだ。まだ、2013年にはなっていなかった、はず。たぶん。
「2012年か」
 老人は(しゃが)れ声で独り言のようにぼそっと言った。
「オウム地下鉄サリン事件」
 いきなり、老人は言った。なんだかこの空間に似つかわしくない単語を聞いた気がして、僕は面食らった。
「え、あの」
「世田谷一家惨殺事件」
 老人は淡々と言った。
「JR福知山線脱線事故」
 知っているかということだろうか?確かにどれもこれも聞いたことのある事件の名称だが…。
「秋葉原通り魔事件」
 老人の歩みは止まらない。床にはびっしりと「1」が並び、しかし法則があるようで、時折途切れ、間を開け、また「1」が並ぶ。
「日本航空123便墜落事故」
 老人の足が、ぴたりと止まった。
「知っているか」
 やはり知っているかと問いたかったのだと僕はほっとしながら頷いた。
「はい。知っています。御巣鷹山(おすたかやま)の…ですよね?」
「どういう事故だった」
「ええ、と、飛行機が墜落して、多くの人が死んだと…」
「520人だ」
 老人は続けた。
「生存者は4人だった」
 僕は驚いた。520名という死亡者数よりも、生存者の4名という数に。520という数は、僕の身近にはなくリアリティをもてず、とりあえず沢山死んでしまったんだと思った。そんなにすごい事故だったのか…その頃生きていなかった僕には事故の強い記憶はない。伝え聞いた情報だけだったから、改めてその数に驚いた。
「そう…なん、ですね」
 なんと言って良いかわからず、僕は曖昧に頷いた。
「520という数がわかるか」
「は、い?」
 老人がどういう意味で問うているのかがわからず、僕はこれまた曖昧に頷く。
「数・・・は、わかると思いますけれど・・・」
「見ろ」
 老人が指を指した。地面だ。僕は見た。

…111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111…

 今まで見た「1」となんの変化がある訳もなく、ただただずらりと「1」が続く。これがなんだというのだろう。
「なんですか?なにかあるのですか?」
 僕は地面に顔を近づけてみた。棒が一本引かれたような乱雑な「1」。いや待て、やっぱりこれは数字の「1」ではないのか?雨…とか?
「これが、520だ」
 僕は、はっとした。慌てて身を引く。そうか、これは!

  1111111111111111111111111
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