第二十九話 副将
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りです、我儘です」
「ケスラー……」
厳しい表情をしている。ケスラーは呆れているのだろう、度し難いとも思っているのかもしれない、内心忸怩たるものが有った。
少し気まずい空気が漂ったが、ケスラーは表情を変えることなく言葉を続けた。
「ブラウンシュバイク公を除けば宇宙艦隊における最上位者はミューゼル提督です。いわば公の副将と言う事になりますがミューゼル提督が若く経験が少ないという事で多くの者が提督にその役が務まるのかと疑念を持っているのが現実です」
「ケスラー参謀長!」
キルヒアイスが声を上げたが、ケスラーは手を上げてその先の発言を封じた。
「ブラウンシュバイク公も当然ですがその事は知っているでしょう。その上でミューゼル提督に四個艦隊を預け援軍の総指揮官に任命しました。提督を信頼していなければ出来る事ではありません。もし信頼していないのであれば公自ら艦隊を率いてイゼルローンに向かったはずです」
ロイエンタール、ミッターマイヤー、ミュラーが神妙な表情で聞いている。キルヒアイスでさえケスラーをもう止めようとはしない。
「ブラウンシュバイク公は四個艦隊をミューゼル提督に預ける事で提督が宇宙艦隊のナンバー・ツーであること、自分の副将として数個艦隊を率いる事が有る、それが出来る能力を持っているのだと周囲に示しているのです」
「……」
「そのために提督の立場を少しでも良くしようとしているのだと小官は考えています。決して提督を侮っての事ではありますまい、今後の軍の事を考えての事です。それを不満などと言えば、今度はミューゼル提督が周囲から副将としての資格なしと非難を受ける事になるでしょう」
「……」
厳しい言葉だ、だが胸に沁みた。ケスラーは俺を心配してくれている。昔は無視されることに慣れていた、その事で自分を奮い立たせた。だが今は受け入れられ、気遣われる事に慣れ、その事で新たな不満を持つようになっている。ケスラーの言う通り我儘以外の何物でもない。
「ケスラー参謀長、卿の言う通りだ、私の心得違いであった」
俺が詫びるとケスラーの表情が緩んだ。
「いえ、御理解頂けました事、嬉しく思います。また、いささか言葉が過ぎました事、お許しください」
「いや、卿の諫言、胸に沁みた、礼を言う。これからも私に過ちが有ったら遠慮なく正してくれ」
「はっ」
周囲にホッとした様な空気が流れた。皆安心したのだろう。
「昔を思い出した、ブラウンシュバイク公に随分と厳しい事を言われた事が有る。個人の武勲ではなく軍の勝利のために行動せよ。そうでなければ誰も付いて来ない、孤立し結局は何も出来ずに終わると……、今ケスラー参謀長に同じ事を言われている、進歩が無いな、私は……」
自嘲が漏れた。……俺は心の何処かで公に張り合おうとしていたのではない
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