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ヴァレンタインから一週間
第10話 長門への説明
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少女を危険が待っている事が確実な異界化した空間などに連れて行く心算はない。

 コタツ以外に、真面な暖房器具のないこの部屋の大気が冬の属性を帯び、短くない会話のやり取りの終わった空白を、静かに、そして確実に埋めて行った。

 たっぷりと時計の秒針が二周ほど出来る時間の経過した後、真っ直ぐに見つめ有っていたその瞳を、この世界に来てから初めて、彼女の方から在らぬ虚空へと逸らして仕舞う。

 そして、

「わたしには、コミュニケーション能力が不足している」

 普段通り、抑揚の少ない話し方で、俺に対してそう告げて来る長門。
 しかし、先ほどまでの彼女とは少し違う雰囲気に包まれていた事は間違いない。

「何も難しい事を言っている訳やない。自分の思っている事を素直に俺に告げたらええだけや。
 まして、俺相手に話しちゃイカン事はないと思うぞ。
 何せ、俺はじきに異世界に消える運命やからな」

 まぁ、正直に言うと、今の彼女の交渉能力では少し難しいかも知ないと思っているのですが。何故ならば、俺を説得する方法は無いと言う事も無い、と言う程度の可能性しかないと思いますから。
 更に、俺の話した理由は、最善手を打つべき状況から考えると間違っていて、更に俺の我が儘に等しい理由なのですが、彼女の事を思っての理由で有る事は間違い有りませんから。

 真っ直ぐに俺を見つめる長門。しかし、その瞳からは、先ほどまでのような威圧感を感じる事は有りませんでした。

「俺は、基本的に物分かりはええ方やし、実際、俺を説得する方法も有る」

 俺は、俺を哀しげに見つめている少女に対して、そう告げた。
 そして、彼女は……。

 そして、彼女は静かに首肯いて答えるだけでした。

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