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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第53話 炎の少女
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撃が、宙空に顕われた防御用の術式に因って阻まれ、そして、その僅かな抵抗により数本の前髪を犠牲にするだけで、辛くも虎口を脱する俺。


「ありがとうな」

 ミーミルの井戸を封じ終わり、湖水より顕われ、一瞬の内に自らの傍に立った少女に対して、そう語り掛ける俺。
 無言で俺を少し見つめた後、微かに首肯く湖の乙女。水を統べる邪神に対して、ラグドリアン湖の湖水を統べる精霊。これで、戦力的には互角と成ったと言う事。

 湖の乙女の登場と同時に、モンモランシーが高くその手を掲げた。その手に握られるは、赤く染まった月の光を集めしナイフ。
 どくどくと、どくどくとナイフを、腕を、そして自らの右半身を染め上げて行く紅き生命の証。

 そう。深く斬り裂かれた自らの手首から紅い生命の証を滴らせながら、

「我は願う。我が捧げる供物、汝らの手で受け取られんことを!」

 巨大な呪を呼び寄せるモンモランシー。
 それは、足元に積み上げられた石をストーンヘンジに見立て、地に突き立てられた霊樹の矢を森に見立て、自らの血を贄として魔法を呼び寄せる代償魔法。

 蒼き吸血姫(タバサ)が呪を紡ぎ、繊手が導引を結ぶ。
 彼女の纏いし精霊たちが活性化し、風と水の精霊が喜びの歌を謡い、歓びの舞いを舞う。

 刹那、轟音が物理的な圧力と感じるまでに至り、凄まじい光が世界を支配した。
 そう。撃ち降ろす九天応元雷普化天尊の雷が邪神の右半身を貫き、月の光を集めたナイフから放たれた金色の光輝が、邪神の左肩を貫く。

 身体の左右を貫かれた邪神の顕現が、奇怪な声を上げた。
 それは……絶叫とも、悲鳴とも付かない、可聴範囲を超えた響き。そして、周囲に充満する肉が焦げたような異臭。

 しかし、それ以後が違う。先ほどは、周囲の精霊を集め瞬時に回復していた傷が、今回は其処までの回復力を示す事はない。
 おそらく、ミーミルの井戸と結ばれていた箇所との間に繋がって居た邪神の絆が湖の乙女により断たれ、この場の精霊を、崇拝される者及び、湖の乙女に因って支配された状態では、如何な邪神とは言え、瞬時に回復するようなマネが出来なく成ったと言う事。

 その瞬間、俺の見ている目の前で水の邪神が真紅の色に染まった。そう、すべてを燃やし尽くすはずの神の炎のはずなのに、何故か俺を傷付ける事はない原初の炎が、共工を捕らえたのだ。
 崇拝される者が直接支配する神炎が、水の邪神を守護する、最後の護りの水の精霊たちを焼き減らして行く。
 そう。一度、捕らえた相手を絶対に逃さぬように……。絶対に離さぬと言うように、神の炎は水の邪神に纏わり付いて行く。

 刹那、俺の背後にて、気の爆発が起きる! 
 その一瞬後、闇よりも深い昏き夜空に舞うは、長き黒髪。二尺八寸に及ぶ毛抜形蕨手刀
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