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弱者の足掻き
十一話 「『二人の』為」
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する権利がある人はもう死んでこの世にいない。だからこれは俺だけが知っていればいいこと。

「0と1は違う。跳ばなきゃいけないんだ。今度は横に脚を下ろすことが許されないんだよ。止まりたくても止まれないように、無理やりに自分を追い立てたくてな。だから駆け下りるために利用させて貰うぞ」
「八つ当たり、だけじゃ、なく、使いすてか」
「ああ」

 きっと、今回だけではない。あと一度、二度同じことをする予定だ。一回だけでは知った怖さから止まってしまうかもしれない。だから理由がつけられない二度目もしなければならない。それにまだいくつか試さなければならないこともある。俺自身、術を試さなければ。

 そんな俺を見て、相手はくだらなそうに顔を歪ませ、口の中に溜まった血を吐き捨て間違いを指摘するように口を開く。

「おりてんじゃねぇ、そりゃ堕ちてんだよ、クソガキ」

 違いないとつい哂ってしまう。
 それは間違いないほどに正論だ。何せ、その先輩からの言葉なのだから。

「化けたのは俺が適任だったから。自分を偽るのは十年以上やってるからあいつより慣れてんだ。人殺すなんざ怖くて怖くてしょうがない。あいつの前で弱音見せるわけにはいかない」

 別人に化けたのもそうだ。自分の顔を、正体を知られないという状態は何かをしても罪悪感を薄めさせる効果がある。その心理的開放を利用しようとしたからだ。
 白の前で弱音を見せたら迷いが生まれるかもしれない。押し付けろといった先の自分が潰れたらいらぬ不安を与える。白には迷いなど持たず動いてもらわねばならない。
 いらぬ感情は全部俺が抱え、表に出してはいけない。
 
 それを理解したのか相手が口元を歪める。

 
「だから俺、か」
「ああ。これから死ぬ人間の前なら泣き言言っても気にする必要がないからな。……『事情がある』『したくてしてるわけじゃない』『俺も辛い』、そんな自己満足。漫画なんかでよくある、相手からしたらゴミみたいな、こっち側だけの自慰行為だ。全部晒して少しでも俺の罪悪感減らす為に使ってんだよお前を。潔く聞けゴミ」
「……はっ、死ねよクズ」
「否定はしねーよ」

 言葉の濁流が止まる。もう、十分だ。これ以上罪悪感の慰めは意味がない。
 言うべきことを言った。それを理解し変化を解いて元の子供の姿に戻る。姿を晒し、後戻りなどできないのだと、精神的にも自分を追い詰めて体を前へと動かす。

 殺す。
 その先に思考が行く前に。その意味を理解し想像し、止まる前に。
『止まるかもしれない』そう思うすら前に、戻れない“結果”が起こるように凶器を両手で構え全力で地を蹴って飛ぶ。

 その刃の先端は、狙い通りに動けない相手の胸元へと突き刺さる。肉を突き刺すその感覚に気持ち悪さを感じ、けれど全力
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