第百四十八話 刹那の記憶
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覚よ」
ウイスキーが入ったそのグラスを手にしての言葉だった。グラスの中には氷がある。褐色の中にその透明な光が映えて静かに輝いている。
「今こうしてここにいるのが」
「嫌か?」
「いいえ」
そうではないと答える。
「嫌じゃないわ。むしろ嬉しいわ」
「そうか。嬉しいんだな」
「このままずっといたい」
こうも言うのだった。
「そう。ずっと二人で」
「じゃあいればいいさ」
そんなアニューを受け入れるロックオンだった。
「俺もこうしていたいしな」
「貴方もなのね」
「アニュー」
また言うロックオンだった。
「まだ飲むよな」
「ええ」
彼の言葉に対してこくりと頷く。
「貴方もそうよね」
「俺は酒には自信があるんだよ」
彼もまた氷が入っているグラスを持っている。それは右手に持ち左手でアニューを抱き締めていた。そうして肩を寄り添わせ合っているのであった。
「幾ら飲んでな。平気さ」
「そうなの」
「けれどな」
だがここでこうも言うのであった。
「平気じゃないこともあるな」
「それは一体」
「御前とこうしていたら」
彼は言葉を続ける。
「それだけで酔っちまいそうだ」
「私と一緒にいたら」
「ああ、それだけでな」
こう言うのである。
「酔っちまう。だからこうしてここにいていいか」
「私も御願いするわ」
それは彼女もだというのだ。
「二人でずっとこうしていたい」
「そうだな。ずっとな」
「ロックオン、貴方と出会えてよかった」
また言うアニューだった。
「私は。一人じゃないのね」
「俺だって一人じゃなくなった」
アニューをさらに自分の方に引き寄せての言葉だった。
「ずっとな。一緒だぜ」
「ええ。一緒に」
二人は今ここロを通わせていた。しかしそれが永遠のものではないことはアニューだけがわかっていた。それに心を痛めながらも。思っているのだった。
第百四十八話完
2009・9・9
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