弐ノ巻
霊力
3
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「ぶ、ぶえーーーっくしゅん!」
盛大な嚔をした後にずずっとあたしは鼻水を啜った。
あ、頭痛いし、熱でボーっとする…。
「姫様。どうしてこの雨の中を歩いてこられたのですか。もう少しお待ちいただけたら、絹笠をお持ちいたしましたのに…もしくは菅笠でも蓑でもなんでも佐々家の方からお借りになられたらお風邪を召されるようなこともございませんでしたのに…」
小萩は椀に何か注ぎながら、心配そうに言う。
「…」
だってさ、しょうがないじゃんか…。
もうあたしもなにがなんだかわからなくて、高彬のぶっとんだ求婚聞いて、咄嗟に何にも言わずにそのまま走って佐々家を出ちゃったのよね。
雨が結構な勢いで降ってたと気づいたときは、混乱しすぎて方々彷徨った挙句、前田家の軒先に駆け込んだ時だった。全身ずぶ濡れで震えていて、やっと寒いという感覚に気づいたあたしは案の定風邪をひいた。
高彬のせいよ。くそう。
あいつが、あんな、あんな…ずっと好きだったとか、言うから…。
高彬は異性!って言うよりは弟、って感じで、今まで好きだの嫌いだのって考えもしなかったけれど、そっか、高彬あたしのこと好きだったのか…。
思えば直後に発六郎のことがあってすぽーんと忘れていたけど、高彬はうちの父上に結婚の内諾を取ってたんだっけな…。「何度も頭を下げられて」とか父上言ってたような。
えっ、いつから?ずっとっていつから?自慢じゃないけどあたし高彬に好きになってもらうような態度をとった覚えはない。世話を焼いてた覚えと、迷惑をかけてる自覚ならあるけど。
そっかー高彬あたしのこと好きだったのかー…全然気がつかなかったなぁ。あたし、高彬と結婚するのかな。
高彬は顔もぶっさいくではないし、若いし、禿げてないし、お腹出てないし、…ふーん。
高彬かぁ。佐々家と前田家は仲がいいから、よもや相手が高彬なんて思ってもみなかったけど…。
ぼんやりと考えていると熱があがってきそうであたしは顔を顰めた。風邪じゃなくて慣れないことを考えすぎたが末の知恵熱なんではなかろうかとさえ思えてくる。
「さ、姫様、葛根湯です。お飲みください」
渡された薬臭い椀の中身をあたしが飲み終わるのを見計らって、小萩はそっと言った。
「さぁ、暖かくしてお眠りになるのが一番です。小萩はずっとこうして姫様についていますから、安心してお休みください」
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