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戦国異伝
第百十二話 東西から見た信長その十一
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「私の最強の敵だ」
「そうでしたねえ」
「やはり知っていたか」
「武田家をこれから支えていくことの出来る猛者だとか」
「ただ勇ましいだけではない。頭も切れる」 
 兼続は既に幸村のそうした話も聞いていた、まさに智勇兼備の者であるということをだ。
「あれだけの者はそうはおるまい」
「そしてその武田家の猛者とあなたがですね」
「強敵同士となっている」
「その御仁が武田家を支えられるだけの人物なら」
 船は夫のその端正な横顔を見て告げた。
「あなたもまた、です」
「上杉家を支える者になれというのだな」
「そうです。あなたは天下の宰相になれる方です」
「ははは、それは買い被りであろう」
「いえ、私はそう見ています」
「では真田幸村もな」
「噂に聞く限りは」
 幸村もまたそれだけの資質があるというのだ。天下の宰相となり人々に泰平をもたらすことができるだけの人物だというのだ。
「そう思います」
「そしてその者と私は」
「お嫌いですか、真田幸村という御仁が」
「不思議とそれはない」
 実際に兼続は幸村に対して悪感情を抱いたことはない、彼に対しては正面から向き合うものを感じているだけだ。 
 だからここでも毅然として言うのだった。
「むしろ好感を持っている」
「そうですね。それではです」
「あの者とは正面から向かい合い」
「そして切磋琢磨すべきです」
「倒すのではなくか」
「おそらく倒せぬでしょう」
 船はそう見ていた。
「同じだけの力がぶつかっても弾き合うことになりますから」
「だからだな」
「はい、あなたもその御仁も死ぬことはありません」
「ではこのまま互いに競い合っていくか」
「そして高みを目指して下さい」
 こう夫に告げる。
「その高みでの力で上杉家を支えて下さい」
「そうだな。私の全ては殿と上杉家の為にある」
「殿程素晴らしい方はおられません」
 船から見ても謙信はそう言うに相応しい人物だ。ただ戦に強いだけでなくその心にある仁が非常に強いものであるからだ。
「戦国に、いえこの世にあれだけの方がおられるとは」
「思いも寄らないな」
「そうでした。殿とお会いするまでは」
「しかし殿は実際にこの世におられる」
「だからこそ是非共」
「わかっている。私は全てを殿の為に捧げる」
 兼続は確かな声で船に答える。
「その私をよければ」
「何処までも支えさせて頂きます」
「すまぬな」
「妻として当然のことです」
 微笑み兼続に答えた。
「では今は」
「休むとするか」
「そうしましょう」
 二人で寝室に向かい休む。兼続にもまた掛け替えのない支えがいた、彼はその支えのことを何よりも、誰よりも有り難いと思っていた。


第百十二話   完


         
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