第百十二話 東西から見た信長その九
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「貴方は武田家に強敵を見ていますね」
「真田幸村ですか」
「あの者は貴方にとって生涯の強敵となります」
謙信は言いながら己と信玄のことを考えていた。敵ではあり奸臣と呼んでいるが決して嫌いではない、その自身のことも考えながらの言葉だ。
「そして織田家にもまた」
「いますか」
「あの家は大きいです。一人ではないかも知れません」
「ですか」
「その者を大事にするのです」
謙信は微笑みさえ浮かべて兼続に告げる。
「よいですね」
「はい」
兼続も謙信のその言葉に頷く。
「そうさせて頂きます」
「強敵は状況が変われば友にもなります」
「友にもですか」
「そうです。なるのです」
こう兼続に話すのだった。
「強敵と親友の違いはほんの些細なことなのですから」
「そうなのですか」
「貴方もやがてわかります」
謙信は微笑みつつ兼続にまた言った。
「このことが」
「では殿も」
「甲斐の虎とは酒を」
信玄についてはそれで。
「尾張の蛟龍とは茶をです」
「では織田信長ともですか」
「やがては」
「そうです。強敵になるかも知れません」
こうは言っても笑ったままだった。謙信からは信長を嫌っている素振りは何一つとして見えなかった。そのうえでの言葉だった。
「楽しみではあります」
「そして一つ違えばですか」
「やがては」
「はい、親友ともなるのです」
謙信はそうした目で信玄と信長を見ていた。そしてだった。
また酒を飲みこんなことも言った。
「この世は一酔の夢です」
「一つ酔ってですか」
「それで終わりというのですか」
「そうしたものです」
それに過ぎないというのだ。
「御仏の時は永遠ですが人の一生なぞそんなものです」
「では天下もですか」
「それもまたですか」
「そうです。ほんの一時のものです」
謙信は人の世をそうしたものだと見ていた、小さなものと見ているのだ。
だから酒を飲んでもこう言うばかりだった。
「酒もまたほんの一時酔うだけです」
「後は醒めるだけ」
「それだけですか」
「そうです。酒もまた儚いものです、ですが」
それでもだというのだ。やはり飲みながら言う。
「これ程よいものもありませぬ」
「だから酒を飲まれるのですな」
「そうです」
こう客将である村上義清にも述べる。
「では今宵も飲みます。では」
「それではですか」
「我等もまた」
「酒は一人で飲むものではありません」
見れば二十五将と兼続の前にも酒が置かれていた。その肴は謙信と同じ梅だ、その二つを前にしてだった。
家臣達も笑顔で言うのだった。
「では今から我等も」
「ご相伴に預かります」
「遠慮はいりません。今宵も飲みましょう」
やはり謙信は酒好きだった。盃を手放す
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