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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第52話 共工
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 タバサが闇色のマントを翻し、俺の右足が大地を蹴る。

 そう。昏い世界の中、精霊に護られし淡い光を発しながら同調した二人の動きが円環を刻み、
 練り上げた二人分の霊力が螺旋を形成する。
 それは、陣。足りない才能を神に奉納する舞いで補い、大地に陣を画く事によって強化された火焔呪。

 炎と水流の交錯が起きる度に大量の水蒸気を生み出し、纏い付くような濃密な呪に染まりし大気が、更なる異界を引き寄せる。
 そう。ここ……七月七日(七夕の夜)のラグドリアン湖は魔力が渦を為し、其処かしこで共工の支配する水の精霊が暴走状態と成り、無意味な騒霊現象や有り得ない雷撃。そして、真夏には考えられない氷が荒れ狂う異界と化していた。

 紅き瞳に怒りに似た感情を浮かべ、俺達を睥睨する共工。その美貌に似つかわしくない。しかし、その姿(蛇身)には非常に相応しい、醜い怒りと暗き欲望の色が浮かぶ。

 そして……。
 そして、その一瞬後、蛇を思わせる喉が大きく盛り上がり――――――――。

「我、世界の理を知り、大地に砦を描く」
「毒を禁ずれば、即ち、害する事あたわず」

 ふたつの口より発せられ、呪符と四本の腕により導き出された魔術回路……。古より伝えられし魔法陣が、俺と蒼き吸血姫の霊気に反応して強い輝きを発し、まるで、何もない空間に直接描かれた存在の如く俺達を取り囲むように宙に浮かび上がる。

 伝承に継がれる共工がどのようなブレスを吐いたのか、定かではない。
 但し推測は可能。何故ならば、彼の邪神の配下の相柳が吐くのが毒で有る以上……。

 巨大な(アザト)が口を開き……。

 並びし牙の間。黒き喉の奥から、呪の籠りし吐息が……流れ出した。
 その息の流れ行く所に存在するすべてのモノ……。樹木は枯れ、水は穢され、大地さえも、脆くも崩壊して行く。

 そして、その腐食の吐息が……今、結界と衝突した。

 俺が大地に描きし呪的な砦を、タバサが毒を禁ずる事に因って補強する。
 最初の層が突破された刹那、次の層が立ち塞がり、それを、更にタバサが補強する。

 そう。その形は球体。全てを柔らかく受け止め、後方に流す球形の結界術。
 第三層、第四層までを易々と突破して、ようやく五番目の砦にて、その腐食の吐息の阻止に成功。

 これは、湖の乙女より伝授された複合呪符。砦を大地に描く結界系の呪符を複数枚同時起動させる事に因って強化した結界術を、毒を無効化する呪符で更に強化し、共工の毒にも対抗し得る結界術と為したと言う事。

 怒りに燃えた紅き瞳で俺とタバサを睨め付けた後、名状しがたい叫び声を上げる共工。

 そして、再び放たれる、凍てつく冬の属性を持つ鞭。
 いや、それは最早、鞭などと表現される数に非ず。
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