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『彼』とおまえとおれと

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か。あーあ」



 桜がにこっと笑って言った。



「残念だなぁ。なんか木下君は日紅ちゃんの事好きなのはバレバレだったから、日紅ちゃんが気付かなきゃどうにかなると思ったんだけどなー。牽制(けんせい)かけたのが、(あだ)になっちゃったな〜あはは、は…」



 桜のその瞳からぽろりと涙がこぼれた。



「さく」



「謝らないで!…絶対謝らないで。わたしを(みじ)めにさせないで。謝ることない。日紅ちゃんは、誰かに謝らなきゃいけないような気持ちで木下くんと付き合った訳じゃないでしょ?じゃあ謝らないで」



 ぼろぼろと涙をこぼす桜を日紅はそっと抱き寄せた。



 言葉にしていないのに、どうして言おうとしたことがわかったのか。



 桜ちゃん。



 うん。あたしは誰かに謝るようなそんな気持ちで犀と付き合おうと思ったわけじゃない。友達がら一歩踏み出す覚悟を決めたのは日紅自身だ。



 犀は本当に優しくて、他人の事を想いやれるいい男だから、日紅よりももっとずっといい人なんて沢山いるんだろう。でも日紅だって離れたくない。犀と一緒にいたい。これから先もずっと。



 多分、きっと、こうして泣いているのは桜だけじゃないだろう。今までも、この先も、こうして日紅は心を痛めて泣く女の子たちに何もしてやれない。犀の隣を譲ることなくそんなことを考えるのは高慢だろうか。



 日紅も桜と一緒に泣いていた。



 悲しまないで。
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