第5章 契約
第51話 湖の乙女
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七月 、第一週、エオーの曜日。
豪奢な寝台の上に眠る少女が、僅かに身じろぎを行った。
一昼夜、こんこんと眠り続けた眠り姫に、ようやく訪れた覚醒のサイン。
その瞳が開かれるのを、彼女の傍らにて無言で待ち続ける俺。
そして、……ゆっくりと過ぎて行く時間。
普段の凛とした雰囲気の彼女。
そして繊細で可憐。更に安らいだ寝顔を、今、俺に見せて居るのも彼女。
彼女が目覚めるに相応しい心地良い大気が世界を支配し、夜と月の子供たちが世界に踊る時間帯……。
「……おはようさん」
俺は、ゆっくりと開かれたその蒼き瞳を確認した後に、そう、自らの主人に対して言葉を掛けた。
普段通りの目覚めの挨拶を……。
俺の声を聴いて、少し安心したかのような気を発し、彼女は軽く上半身を捻じるようにして身体を俺の方に向ける。
そして、その蒼き瞳に、魔法に因り照らされた明かりの下に存在する俺の姿を映し……。
ゆっくりと上半身を起こし、寝台の傍の椅子に腰を下ろした俺と同じ目線の高さに成った彼女が、白い、……より繊細な印象の腕を躊躇いがちに伸ばし、俺の頬にそっと、その冷たい指先を当てる。
いや、寝起きの彼女の指先が、そんなに冷たい訳はない。これは寝起きの彼女に、余計なショックを与える事に因って緊張を強いたから。
但し、彼女が意識を失う直前の事を忘れて居なければ、目覚めた時に俺が居なければ、それはそれで、余計なストレスを与える結果と成る。
まして、隠してもあまり意味がない事ですから。
「気にするな……と言ったら、信用して、それ以上の事を聞かないで置いてくれるか?」
今まで通りの右の瞳と、変わって仕舞った左の瞳で彼女を見つめながら、そう問い掛ける俺。
しかし……。いや、当然のように首を小さく三度、横に振る蒼き姫。
これは否定。そして逆の立場に有ったのならば、俺も同じ答えを返すで有ろう反応。
俺は、頬に触れたままの彼女の左手を、壊れ物を扱うような慎重さで、そっと掴み、そのまま、自らが座った椅子ごと彼女の方に一歩近づく。
そうして、
「この変わって仕舞った左目は、タバサと擬似的な血の契約を結んだから起きた霊障」
最低、最悪の事実を言葉にした。
繋がれた右手と左手が、彼女によって、手の平同士を合わせ、指と指を絡めるような繋ぎ方へと変えられる。
そう。それは、あの時と同じ繋ぎ方。強くて、弱い、あの時と同じ繋ぎ方。
「但し、タバサは気にする必要はない。おそらくこれは、タバサの家系が受け継いで来た血族の血の所為で、こう成った訳ではないから」
繋いだ手に因って、体温が直に伝えられるように、そう彼女に告げる俺。
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