第百十二話 赤い果実
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その名前を聞いたロジャーの目が少し止まった。
「お忙しいか」
「結構以上にね。そして私も」
「君のことは聞いてはいないが」
「聞かせたいのよ」
くすりと笑って彼に言ってきた。
「レディーの日常をね。それでなのよ」
「どうしても聞いてもらいたいのか」
「そういうこと」
また笑って言うのだった。
「それでね。この前だけれど」
「どうかしたのか」
「この街を色々と見ることになったけれど」
「この街をか」
「ええ。やっぱり変わった街ね」
あらためてこの街のことを話すエンジェルだった。
「一つの街で完全に成り立っているわね」
「そうだな」
「そして外の世界のことは一切わからない」
このこともロジャーに告げてきた。
「外から来ている人もいるのに」
「その話はしないと言った筈だが」
「出入りしているのは一人とは限らないわよ」
エンジェルはロジャーの言葉をまずは無視した。
「そして一つとも限らないわよ」
「一つともだと」
「そして」
「そして?」
無意識のうちにエンジェルの話を聞いていた。
「夢と現実は同じものでもあるわ」
「話がわからないのだが」
「いえ、同じなのよ」
彼女はそこを強調するのだった。
「それもまた同じなのよ」
「同じだというのか」
「ええ。外から出入りしてるのは複数かも知れないしそして夢と現実は同じもの」
また話すのだった。
「そのことを覚えておいて」
「覚えておけというのか。私に」
「よかったらね。さて、と」
ここでエンジェルは自分の食事を終えた。ロジャーは既にであった。
「これからどうするつもりかしら」
「とりあえずは家を出る」
このことは話した。
「とりあえずはな」
「そう。だったら注意した方がいいわよ」
「何故だ?」
「ベックだけれど」
そん脱獄し再びロジャーに敗れた彼だ。
「また脱獄したそうよ」
「何っ、またか」
「そう。またよ」
こう彼に話してきた。
「それで誰かと接触してるそうだから」
「あの男が。何故だ」
「私もそこまではわからないわ」
くすりと笑ってロジャーに告げてきた。
「御免なさいね」
「別に君が謝ることはない」
それはいいとした。
「だが」
「だが?」
「あの男も懲りないものだ」
ベックについてである。
「あれだけ捕まってもまだ脱獄するか」
「それが彼の美学なんでしょうね」
「美学か」
「貴方には貴方の美学があるように」
楽しそうに笑いつつロジャーの顔を見ていた。
「彼には彼の美学があるのよ」
「そういうことか」
「ええ、そういうこと」
またロジャーに話してきた。
「そして脱獄してきたからには」
「私への復讐か」
伊達に何度も捕まえ刑務所に送っているわけではなかった。
「それだな」
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